パチンコ店の前に、各チームの運代表十二人が並んだ。
全員に1から3の数字が書かれた札、表が○で裏が×の札、そしてワイヤレスの早押しボタンが渡された。


「クイズがあるんだったら……運じゃないじゃんか」
夕子がブツブツ言っている。
「ひなちゃん、がんばろうね」
「そうですよ、朝日奈さん。虹野さんもこう言ってるんですから」
沙希に同調して田代も夕子を励ます。
「そりゃ、田代君は沙希と一緒だったらなんでもいいんだろうけどねぇ」
「「ちょ、ちょっと待ってよ!」」
夕子への返事の声、沙希と田代が見事にハモっていた。


「では、最初の問題です。早押しです」
司会者が、前から最初にパチンコ玉を手にするための問題を読み上げた。
「問題、今、私の手のひらには平仮名が一文字書かれています。
 それは何でしょう?

(げ、なにこれ……)
(そんなのわかるわけないじゃない……)
(問題まで……運試し?)
夕子が、沙希が、田代が一瞬絶句した。
ピンポーン!
「東大寺学園!」
「あ!」

ブ、ブー!

不正解のチャイムが鳴った。
それはそうだろう。まともに考えてわかる問題では無いのだから。

ピンポーン!

続けざまにボタンが押された。
「館林女子高校!」
「や!」

ブ、ブー!

「沙希! 押すよ!」
「うん!」
夕子達も慌ててボタンを押し始めた。

「き!」ブ、ブー
「く!」ブ、ブー
「ち!」ブ、ブー
「し!」ブ、ブー
「ほ!」ブ、ブー
「さ!」ブ、ブー
「ん!」ブ、ブー

沙希や田代も含め全員が答えども答えども、不正解のチャイムが鳴り響いていく。

ピンポーン!

何回この音を聞いたであろう。
「やった! やっとついた!」
夕子がガッツポーズをした。夕子のランプが初めてついた。
「きらめき高校!」
「えっと……ゆ!」

ピンポンピンポン!

正解のチャイムが鳴り響いた。夕子が大きくガッツポーズをする。
「正解です! ご覧下さい!」
司会者が差し出した手のひらには黒マジックで大きく“ゆ”と書かれていた。
「玉を貰って中へ入って下さい!」
「もちよ!」
夕子は札やボタンを足下に放り出すと、スタッフから玉の入った箱を受け取り、店の中へ一目散に飛び込んでいった。

「では、引き続き問題です。私の靴の裏にはアルファベットが一文字書かれています。
 それは何でしょう?

「K!」ブ、ブー
「O!」ブ、ブー
「N!」ブ、ブー
「A!」ブ、ブー
「M!」ブ、ブー
「I!」ブ、ブー
再び同じ光景が繰り返され始めた。


一方の夕子は店に飛び込むと台を物色し始めた。
「二千発か……フィーバーさせれば一発なんだけどな……
 ヒコーキ台は玉持ちは良いかもしんないけど、短時間で勝負するんならちょっとねぇ……
 やっぱフィーバー台だよね」
夕子は慣れた様子でチャッカーの入賞口付近の釘をチェックし、目を付けた台に座ると、足を組んでサッと打ち始めた。
「さぁ、来てよ……一発で……今日は一日勝負じゃないんだから……一回で良いんだよ……
 連チャンしなくてもいいからさ……揃ってよ……」
ブツブツ言いながら打つ夕子だった。
表からは二人目……三人目と玉を持った高校生が入ってきた。

「問題、私の身長は170センチより高い。○か×か?
全員が札を上げる。
「正解は×。私の身長は169.5センチです。×の皆さん、玉を貰って中へどうぞ」
残っていた九人のうち六人が中へと入っていった。
「田代君、先に行くね」
「頑張って、虹野さん。僕もすぐ行くから」
残った田代に一声かけると沙希も中へと入っていった。


夕子は鼻歌を唄いながら玉を打っていた。入り口から沙希が入ってくるのが見えた。
「やっほ、沙希! あれ? 田代君は?」
「え? あ、田代君はまだなの……」
そう言いながら沙希はキョロキョロと周りを見回している。
「あのね……ひなちゃん……」
「どったの、沙希?」
「どうやってすればいいの?」
店内に入ったのは良いが全くやり方がわからない沙希は夕子に尋ねた。
「椅子に座って、玉を皿に入れてレバーを回せば玉が出るんよ。
 ここんとこ狙っていけばいいから。
 で、ここかここかここに入れば真ん中のデジタルが廻るからね。
 三つ揃えばここが開くから。
 あとは十発ずつ入賞が十五ラウンド終わったらまず間違いなく二千発は出てるから」
「うん……わかった……ひなちゃんよく知ってるのね」
「あはは……これで夜食のおやつはいつも稼いでるからね」
「ひなちゃん……それは良くないと思うな……」
沙希はそう言いながら夕子の隣に座った。
「あ、ダメそこ!」
夕子が叫ぶ。
「え!」
慌てて沙希が立ち上がる。
「どうしたの、ひなちゃん」
「そこは釘がしまってるからダメ。えっと……135番と268番はよかったよ。
 それと136と58と198はまずまずだったよ」
夕子は沙希の耳元で囁いた。
「そう……なの……」
手慣れた様子の夕子に呆れ返りながらも沙希は教えられた台へと向かった。
すぐに背後から夕子の叫び声が聞こえてきた。
「よっしゃぁ、来た来たぁ! 7が三つぅ!」


「はぁはぁ……やっと入れた……」
田代はやっとの事で玉を受け取ると、最後の一人になって中へと入っていった。
店内を見渡すと夕子の台のランプが点滅し、店員が上に“FEVER”と札を付けている。
「早いなぁ……朝日奈さん、もうフィーバーか……」
そう呟きながら歩いていった。
隣の島に行くと、沙希が椅子に座ったところだった。
「あ、虹野さんだ!」
沙希を見つけた田代はそばへ走っていった。
「あ、田代君!」
「頑張ってね、虹野さん」
「うん……あ、そうだ。ひなちゃんからの情報。268番がいいんだって。
 それと136、58、198もまずまず良いんだって」
「そっか……でも268番はもう東大寺学園が座ってたから……
 あ、虹野さんの隣が136か……ここで打つね」
そう言うと田代は沙希の隣に座った。

「えっと……あれ? あれれ?」
沙希が首を捻っている。
「どうしたの、虹野さん?」
田代が玉を皿に入れながら尋ねた。
「玉が……出ないの……」
「え? そんな馬鹿な……って虹野さん……」
田代は沙希の手元を見て笑いながら言った。
「それじゃ出ないよ……下の皿は玉が出てくるところだから。上に入れないと」
「え? そうなの?」
沙希は慌てて玉を上の皿へと移し出した。
「あ、出た!」
沙希は大声で喜んでいた。


「あ、入った入った!」
「あ、すっごーい、廻った廻った!」
「うわぁ……出て来たぁ!」

沙希は一人で喜んでいた。
入賞口に玉が入っては喜び、デジタルが廻っては喜び、玉がザラザラっと出てきては喜び……
「さぁ、根性よ! 根性で三つ揃うのよ!」
「虹野さん……」
隣で田代が苦笑していた。


夕子はフィーバータイムが終了すると、確変に突入し連チャンモードに入っている台に少し未練を残しながらドル箱をカウンターに持っていった。
「さぁ、一番手はきらめき高校だ」
表で問題を読み上げているアナウンサーとは別の、もう一人の司会者がカウンターで夕子を出迎えた。
「よいしょっと!」
夕子は箱を持ち上げると計数機に玉をぶちまけた。
「さぁ行くか? 二千発行くか?」
計数機はカチャカチャとカウントしていく。
夕子は真剣な目で見ながら……
(あぁ……これだけあればなぁ、結構お菓子がもらえるのになぁ……)
などと考えていた。
「千五百……千六百……千七百……千八百……千九百……二千! 行ったぁ!
司会者が絶叫した。
パチンコ店内に勢いよく軍艦マーチが流れていく。
「きらめき高校、ただ今、二千発達成。一番手!」
夕子はカウンターの店員から勝ち抜けのレイを受け取ると店を飛び出しメイン会場のホテルに向かった。

「くっそう! 玉が無くなった!」
その夕子に続いて何人かが、空になった箱を手に、正面での運試しクイズに戻ってきた。

一方、図書館では詩織・未緒・佐藤たち知力班がペーパークイズに挑んでいた。
卓球でサーブ権の交代は何本おきでしょう? ……五本だったわよね)
秋から冬にかけて咲くツバキ科の花で漢字で“山茶花”と書く花は何? ……これはさざんかですね……)
西暦六百六十年に天智天皇が初めて作らせた中国伝来の水時計は何でしょう?
 えっと……なんだったっけ?)
とりあえず一通りをやって採点を受けないと開架室に調べ物に行くことができない。
大急ぎで全員が解答を書き込んでいく。


「お願いします」
詩織が真っ先に解答を終え、正面の採点席に解答用紙を提出した。
素早くスタッフがパーティションの裏で採点を始めた。
(六十問はできていると思うけど……)
そう思った詩織の元に解答用紙が戻ってきた。
「正解数は六十七です。あと三十三問です」
詩織は解答用紙を受け取ると自信がなかった問題やわからなかった問題の答えを調べるためにホールを飛び出すと階下の開架室に急いだ。

続々と他の高校生も解答用紙を持ち込み、採点ルームは大忙しとなっていった。
正面のボードに一回目の採点結果が次々と書き込まれていく。
一回目の採点で過半数の正解をしたのは半分の六チームだった。

きらめき(藤崎)67智弁和歌山49
東大寺学園63館林女子47
きらめき(如月)62新潟明訓45
北斗農業62高松西44
米子東61高知学芸42
ラ・サール52那覇西39

三十分を経過した時点で、全チームが開架室での調べ物に移っていた。

「えっと……物事の区別がはっきりしないことや、動作が鈍くはきはきしないことを俗に“暗がりから何”と言うでしょう?
 ……慣用句辞典よね……」
詩織は一問一問確認しながら進めていく。
「えっと……暗がりから……く……く……あ、あった……暗がりから牛、牛ね!」
詩織は解答を消しゴムで消すと書き換えた。

体の中にあるミネラルとしては一番多い元素で、石灰を意味するラテン語から名付けられた物は何でしょう?
 ……どうしましょう?」
未緒も開架室をうろうろしていた。
「医学事典でしょうかね……あ、そうだわ!」
未緒は慌てて語学のコーナーに走っていった。図書館は未緒の庭のような物だ。
初めての館でも日本十進分類法を記憶している未緒にとっては有利な場所である。
語学のコーナーで未緒は詩織に出会った。
「あ、藤崎さん!」
「如月さん」
詩織は声をかけられて振り返った。未緒が立っている。
「如月さん、あんまり私たち話さない方がいいわ」
詩織が未緒に言った。
「え? どうしてですか?」
「ほら」
詩織は書架の向こうに立っているスタッフを指差した。
「同じ高校から二チーム残っているから、答えを教え合わないようにずっと見張ってるみたいなの」
「あ……そういえばそうですね……」
未緒は納得したように頷いた。
「余計な勘ぐりをされないように気を付けましょう」
「はい……」
未緒は頷くとラテン語辞典を棚から取り出した。
「石灰……石灰……あ、ありました……えっと……あ、なるほど……カルシウムですね」
離れていく詩織を見送りながら未緒は答えを書き込んだ。

西暦六百六十年に天智天皇が初めて作らせた中国伝来の水時計は何でしょう?
 これがわからなかったんだよな……」
佐藤は困り果てていた。日本史大百科事典に全く記載がない。
「何に載っているんだ……」
佐藤が書架をうろついていたときに、ふと一冊の本が目に入った。
「あ、これだ!」
佐藤は棚から“時計の歴史”と言う本を取り出すと捲り始めた。
「あ、あった! 漏刻か……水時計だから水が漏れる時刻なんだな。なるほど……」

「さぁ、きらめき高校が調べ物を終えて戻ってきました」
詩織は一通り調べ終えると二階のホールに駆け上がった。
「採点お願いします」
詩織は二度目の提出を行った。スタッフが採点していく。
「きらめき高校……九十一点です。あと九問だ、ガンバレ!」
スタッフの励ましを背に詩織は再び開架へと走っていった。

「東大寺学園、八十八点」
「米子東、八十五点」

上位陣も正解数を増やしていく。
そんな中、佐藤がホールに戻ってきた。
スタッフが採点を終えて佐藤に告げる。

「北斗農業……七十点」
「えぇ! ……そんな……」
他のチームが大幅に得点をのばしたのにも関わらず、佐藤の点数は伸びなかった。
一回目終了時の四位から一気に十位に転落した。
「各チームとも、気をつけてください。
 正解の解答を書き直して誤答にしてしまっているチームも結構あります」

スタッフが開架室にアナウンスした。

「きらめき高校……」
未緒の採点を終えたスタッフが未緒に告げた。
「九十七点! ここまででのトップです!」
未緒は驚いたような表情をしたが、すぐに用紙を受け取ると開架室へと急いだ。

(如月さん……さすがね……)
三回目の採点に戻ってきた詩織は正面のボードを見て、トップに立った未緒の名前を確認した。
「きらめき高校……九十六点」
(う〜ん、もうちょっとなのにね……よし、次で獲るわよ)

詩織は三度、開架室へと向かった。

(みんな頑張ってるかな……公くん……大丈夫かな……)


その頃、公たちは……

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル10:「それぞれの戦い(1)」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
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感想投稿最終日時2019年04月12日 03時09分45秒

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