競技開始の合図から2時間が経過していた。

楽しくパチンコをする運チーム、ひたすら図書館で資料を調べる知力チーム。
そして、もう一つの体力チームは……


「はぁ……はぁ……」
間宮は黙々とバイクマシンを漕いでいた。
「汗を……出さなきゃいけないんだ……」
隣ではルームランナーで公と好雄が並んで走っている。
周りでは他の選手達もそれぞれに汗を流している。
「体重を……手っ取り早く……はぁはぁ……落とすには……はぁはぁ……
 汗を流すのが……はぁはぁはぁ……一番だからな……」
好雄はそう呟いていた。
「ふぃ〜、きつい……」
公が呟いた。
「確かに……ペットボトル三分の一本分の汗を出しゃいい、ってことだけど……
 こんなにきついとは……」
公はルームランナーから飛び降りるとゼイゼイと息をした。
「お前……サボってて、大丈夫か?」
好雄が公を見下ろしている。
「ちょ、ちょっと休憩……」
公は給水所に用意してある、紙コップの水を一口飲んだ。
「馬鹿、公。それじゃ、何にもならねぇだろ!」
好雄が公に言った。
「わかってるさ……けど……美術部の俺には……マジできついぜ……」
そう言う公を横目に黙々とバイクを漕いでいた間宮がマシンを降りると、計測所に向かった。
「根性無し……」
公とすれ違うときに間宮はポツリと呟いていった。
!!!
公は振り返ったが、間宮はそんな公を全く無視して計測所の体重計に向かった。


「北斗農業……マイナス……0.3kg」
計測員が読み上げた。
「あと……200か……」
間宮はそう呟きながら、体重計を降りた。
「この調子なら……大丈夫だ……」
間宮は公をチラリと見ながら再びバイクマシンにまたがった。

「おい、どういう意味だよ!」
公が間宮に言った。
その目は怒りに満ちている。
「根性無しってどういう意味だよ!」
「別に……そのまんまさ……」
「なめんじゃねぇ!」
公は右手の拳を振り上げた。
「殴るのかよ、だったら殴れよ。
 シオリンさんの……藤崎さんの思い人がこんな奴だったとは……がっかりしたよ」
「なんだと!」
「公、やめろ!」
好雄が横から叫んだ。
しかし、公の拳は止まらなかった。
間宮の左の頬に向かって公の拳が飛んだ。
「!!??」
公の拳が空を切った。
間宮は、拳一個分、体をスウェーさせて公の拳をかわした。
「主人、お前……今、何をやってるのかわかってるのか?」
「わかってるさ、高校生クイズの三回戦だよ」
「なら、今やることは何だ?」
「……」
「お前、いい加減なことをやると……許さねぇぞ」
「お前にそんなこと言われる筋合いは……」
あるんだよ!
間宮は怒鳴った。
「シオリンさんは……藤崎さんは、どうして高校生クイズに拘ったか……わかってるのか?」
「どうしてって……そりゃ、詩織はクイズが好きだから……」
「ばーか……そりゃ違うよ」
横から好雄が口を挟んだ。
「好雄……どうしたんだよ、その目は……」
公の言うとおり、間宮の意図が読めた好雄はいつになく真剣な目で公に対峙した。
「シオリンさんは……藤崎さんは……主人、お前と出たかったんだよ」
「馬鹿な……俺はたまたま幼なじみだから……声がかかっただけだろ……」
馬鹿野郎!
間宮が再び怒鳴った。
周りの挑戦者達が一斉に間宮達の方を見た。
しかし、間宮は構わず続けた。
「昨日からの藤崎さんを見ていて俺はよくわかったよ。
 シオリンさんは……藤崎さんは、主人公が好きなんだってな」
「ど、どうして……そんなことが言えるんだよ……」
間宮の突然の言葉に公が戸惑った。

(詩織が……俺のことを??)

「わかるさ……俺には……」
「だから、どうして……」
言いかけた公に間宮が叫んだ。
「それは……俺も藤崎さんが好きだからだよ!」
「間宮……」
「だから、俺にはわかるんだよ。藤崎さんは、主人が好きだって」
「でも……俺にはそんなこと……一言も……そうだろ?」
公は隣の好雄に尋ねた。
「バーカ……気づいていないのお前だけだよ」
「でも……」
「夕子も、虹野さんも、如月さんも……北斗農業の田代も佐藤も……みんな知ってるさ。
 詩織ちゃんが本当に好きなのはお前だってことは」
「知らないのは……俺……だけ??」
「案外、詩織ちゃんも気づいていないのかもな……自分の気持ちに……」
「いや……気づいていると思う……」
間宮が言った。
「だからこそ、拘ったんじゃないのか? 高校生クイズに……」
「詩織が……俺を?」
「そう言うお前はどうなんだよ!」
間宮が公の胸ぐらを掴んだ。
「俺は藤崎さんが好きだ。だから……彼女を悲しませたくない!
 だから……だから……お前に……」
「間宮……」
間宮の言葉からは悲壮感が漂っていた。目から涙が零れている。
「へへへ……きついな……目からまで汗が出てきやがる……」
そう言うと間宮は再びマシンに跨って漕ぎだした。
「詩織……だったら……」
「後は、お前が詩織ちゃんの気持ちに答えるんだ」
好雄が呟いた。


公は立ち上がると走り始めた。
一心不乱に……それは横目で見ている好雄や間宮が生唾を飲み込むほど、悲壮感が漂っていた。
(詩織……詩織……俺は……負けないぞ……)
「ふっ……」
間宮は安心したように笑みを浮かべた。
(やっぱり……彼女の目に狂いはなかったか……
 あいつは……大した奴だよ……
 ちょっと鈍感なところがあるが……本気になったあいつには……敵わないな)
間宮は公を見ながらそんなことを考えた。
(よし、俺も負けないぞ……先にメイン会場に戻るのは……俺だ)
間宮もペースを上げた。

その時、計測所でアナウンサーが絶叫した。
「減量成功! 突破したのは……米子東!」

一方、図書館……知力の会場。

「きらめき高校、朝日奈チーム・如月さん。満点です!」
未緒は3回目の提出で満点を取った。
「本当ですか!」
「もちろん、さぁ、自転車の鍵です。メイン会場に急いで下さい」
スタッフから鍵を受け取った未緒は図書館の入り口に用意されている自転車に跨りメイン会場のホテルを目指した。
知力の会場を真っ先に飛び出したのは未緒だった。
知力の会場もいよいよ競技が動き始めた。


「北斗農業……佐藤君。八十九点」
「くっそう……まだダメか……」
佐藤はまたもや閲覧室に走り込んだ。

「きらめき高校、藤崎チーム・藤崎さん。九十九点」
「あと……ひとつね……」
詩織も最後の一問を正解できなかった。
佐藤に続いて、閲覧室へと戻っていく。

(公くん……頑張ってるよね……私も……負けないから……)

こちらはパチンコ店……運の会場。

「あ〜ん、なくなっちゃった……」
「ありゃりゃ……出ないなぁ……」
隣り合って打っていた沙希と田代は同時に持ち玉を打ち尽くした。
「た、田代君も?」
「に、虹野さんも?」
二人は向き合うと、真っ赤になって……そして、表の運クイズに戻っていった。
その二人の後ろで軍艦マーチが流れた。
「いったぁ! 二千発! 東大寺学園!」
「続いて、館林女子も二千発達成!」

運の会場では、そろそろ二千発達成の通過者が出始めた。

こちらはメイン会場……

「いっちばーん!」と叫んで、一時間半前に先頭を切って戻ってきた夕子。
会場にはまだ誰も戻ってきていない。
まさに一番乗りを果たしたわけであるが……
「どうして誰も戻ってこないんよ!」
一人で待つ退屈さに負けそうになっていた。
「ヨッシー! 未緒ぉ! シオリンッ! 沙ぁ希ぃ! 公くん!
 誰でも良いから早く戻ってきてよ!」


「そんなこといったってなぁ……」
脇で見ていたスタッフが呟いていた。
「こんなに早く戻って来るってのは……計算外だからなぁ……
 だいたい、どの会場も早い人で二時間前後、遅い人で五時間くらいって思ってたんだから」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル11:「それぞれの戦い(2)」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
感想投稿数0
感想投稿最終日時2019年04月09日 11時47分01秒

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