「きらめき高校……主人君、マイナス0.45kg」
公が体重計に乗ると、素早くスタッフが数字を読み上げた。

「あと……50gか……もうちょいだ」
公は体を動かしながら体重計を降りた。
「流石だな、公」
後ろで計測待ちをしていた好雄が肩を叩いた。
「あぁ、絶対に勝ち残ってみせるぜ」
公は好雄にそう言うと戻ってこうとした。

その時、向こうから間宮が走ってきた。
「どうだ、主人?」
「あと50gだ」
間宮の問いかけに公は答えた。
「あとご、……ごじゅぅ?」
間宮が驚いて声を上げる。
「どうかしたのか?」
「い、いや……なんでもない……」
間宮が手のひらをヒラヒラさせて、公に「あっち行け」と促した。
公は首を捻りながらも間宮に背を向けると走っていった。
「あいつ……」
間宮は計測所に走りながら呟いた。
「あれだけスタートが遅かったのに……もう後一息まで来ていやがる……
 さすがというか……恐ろしくなってきたぜ」
そして、間宮は顔を上げた。
「もう、あいつと張り合うのは辞めだ。認めてしまえば楽だもんな」
「そういうこと」
呟く間宮後ろから好雄が肩を叩いた。
「だな?」
「だよな……」
二人は笑った。

「クシュン!」
ランニングマシンの上で走りながら公は大きくくしゃみをした。

「未緒!」
ゲートを潜って入ってきた人影を見て夕子が叫んだ。
「夕子さん!」
「やったじゃん、未緒が知力一番乗りかぁ。シオリンより早いとは思わなかったなぁ」
「そんな……まぐれです」
「またまたぁ……これでうちは……ヨッシーだけか……あいつ大丈夫かな?」
「大丈夫なんじゃないですか?」
未緒は心配そうにする夕子に話しかけた。
「んなこといったって……あいつ馬鹿でおっちょこちょいだから……」
「ふふふ……」
顔を赤くして好雄の悪口を言う夕子の横顔を未緒は笑って見ていた。

「クシュン!」
公の隣で走っていた好雄が大きくくしゃみをした。
「風邪か?」
公が尋ねた。
「いや……おおかた夕子が悪口でも言ってるんだろう」
好雄は答えた。
「ところで……好雄はあとどれだけだ?」
「俺か? あと190gだ。きついな」
好雄は答えた。体からは汗が出きっているようで、表情も苦痛に満ちている。
「無理するなよ……」
「ここで無理しないで……いつするんだよ」
好雄は笑った。


「北斗農業……マイナス0.51kg。通過!」
「うっしゃ!」
体重計を読み上げるスタッフの声に、間宮がガッツポーズをした。
「さぁ、メイン会場にマラソンで戻って下さい」
司会者の誘導に間宮は玄関に走った。
途中で競技場の横を通り抜ける。
「主人!」
間宮が競技場の中に向かって叫んだ。
声に気づいた公が顔を上げる。
「先に行くぞ!」
間宮が親指を立てて公に合図を送った。
公も親指を立てて合図を返した。
「すぐに追い付くから!」

「きらめき高校、藤崎さん。満点です!」
「やったぁ!」
詩織は両手を上げて飛び上がった。
知力コース二人目の通過者だ。
詩織は自転車の鍵を受け取るとメイン会場に向かった。
「公くん、虹野さん、待っててね。すぐ行くから!」
詩織は自転車に飛び乗ると会場に向かった。


「北斗農業、佐藤君。八十九点」
「えぇ……まだダメなのか?」
佐藤は肩を落とした。
「ガンバレ! 後すこし」
スタッフが励ます中、佐藤はまたもや開架室へと向かって行った。
チラリと横目で成績表を見る。
他のチームは軒並み九十点以上になっている。
「俺がビリなのかよ……」

パラパラッパッパッパッパー……

ファンファーレが鳴り響いた。
玉が無くなること六回。遂に沙希の台がフィーバーした。
「きゃぁ! 揃ったぁ! 見て見て、田代君! 揃ったのよ!」
沙希は隣に座っている田代の肩を叩いた。
「やったじゃない、虹野さん。これで大丈夫だよ」
田代が我が事のように喜んで言った。
「でね、この後どうするの?」
沙希が田代に尋ねる。
「……ほら真ん中の大きな口が開いているだろ。ここに玉を入れるんだ。
 十発はいったら閉まる。で、又開く。
 これを十五ラウンド繰り返せば終了だけど、多分それで二千発行ってると思うから」
「うん、わかった……ありがとね」
沙希はお礼を言うと打ち続けた。
「早く田代君も揃えばいいのにね」
しかし、またもや田代の台は彼が持っていた全部の玉を飲み込んでしまった。
田代は八回目の玉の補充に店の外へ飛び出した。

「シオリン!」
「藤崎さん!」
詩織がメイン会場に戻ると、夕子と未緒が出迎えた。
「他のみんなは?」
詩織が真っ先に尋ねる。
二人は首を横に振った。
「そう……他のチームは……まだみたいね」
詩織は周りを見回した。
三人揃っているチームはまだ無い。
「五チームよね、通過できるのは……
 今のところは……ひなちゃんの所が一歩リードってかんじかな?」
詩織が言うとおり、夕子のチームが二人いるのを除けば、他のチームはまだ殆どが一人しか戻ってきていない。
一人も戻ってこないチームもある。
「大丈夫だって、公くん、きっと戻ってくるから」
夕子が詩織の肩を叩いた。
「うん……」
詩織が頷く。

「きらめき高校、主人君。マイナス0.52kg。通過!」
その瞬間、公はすぐに飛び出した。
「行くぞ……急げ……急げ……急げ……」
公は建物を飛び出した。
メイン会場までの道のりは五キロ、0.5kgの減量をした体で走るのは決して楽ではない。
しかし公は走った。
「詩織が……待ってるんだ……」


「く……」
メイン会場へ向かっていた間宮が歩道に座り込んだ。
「く……いてて……くそ……負けるか……」
間宮は自分の右足に、スポーツセンターを出てからずっと違和感を感じていた。
それがここへ来て、動かすのも辛いほどの激痛になってきた。
「足首の捻挫……だろうな……」
間宮は痛む足を引きずりながら立ち上がった。
(ここでリタイアすれば楽になるぜ)
そう、頭の中でもう一人の自分が囁く。
「だめだ……佐藤と田代が待っているんだ……
 逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……」
間宮は痛む足を引きずって、ブツブツと呟きながら歩き始めた。

「あ、沙希だ!」
夕子が叫んだ。
はぁはぁ言いながら走ってきたのは沙希だった。
「やっほぉ! 沙ぁ希ぃ! こっちこっち!」
夕子が手招きする。
沙希は夕子や詩織を見つけると慌てて走ってきた。
「はぁはぁ……ごめんな……はぁはぁ……
 ごめんなさい……遅くなっちゃって……
 ……はぁはぁ……」
「大丈夫よ、虹野さん。早かったほうよ」
詩織が周りを見ながら言った。
「そう……なの?」
沙希も周りを見回す。
確かに、続々と戻ってきているように思えるが、実際には総勢三十六人のうち、戻ってきているのは二十人にも満たない。
知力で戻ってきたのは きらめき高校の二人に、東大寺学園、ラ・サール、新潟明訓、米子東、智弁和歌山の七人。
体力で戻ってきているのは米子東、智弁和歌山、高知学芸、那覇西、ラ・サール、館林女子の六チーム。
時の運で戻ってきたのは夕子と、東大寺学園、館林女子、高松西に、沙希を加えた五人。
リーチがかかっているのはきらめき高校の二チームと東大寺学園が残り体力、米子東とラ・サール、智弁和歌山が時の運、館林女子が知力の、計七チーム。
北斗農業が苦戦している。
「行けるよね。みんなで……みんな勝ち抜けるよね……」
沙希が言った。
「大丈夫よ……仲間を信じましょう」
詩織が沙希に言った。

「はぁはぁはぁ……」
公はメイン会場に向かって走っていた。
残り半分を過ぎたところで、前を行く人影を見た。

「あれ……間宮じゃないのか?」
公は足を引きずって歩く間宮を前に見つけた。


「あいつ……怪我したのか?」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル12:「それぞれの戦い(3)」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
感想投稿数0
感想投稿最終日時2019年04月09日 05時20分44秒

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