「間宮……お前……」
公は足を引きずりながら走る間宮に後ろから声をかけた。

「……主人か……」
間宮は一瞬振り返ったが、すぐに前を向き直ると、再び走り始めた。
公はその一瞬で間宮の怪我の状況がわかった。
(重傷だ……)
振り返った間宮の表情は笑みを浮かべていたが、脂汗が流れており青ざめていた。
苦痛に耐えている様子が後ろからでもありありと分かる。
「ほらよ」
公は間宮の肩を担いだ。
「な、なにをするんだ!」
間宮が公に抗議した。
「その足であと2キロ以上走れるわけないだろ。一緒に行こうぜ」
「ば、馬鹿野郎、そんなことしたらお前まで……」
間宮は公を振り解こうとするが、足の痛みが邪魔して思うように行かない。
公はそんな間宮を引きずるように再び走り始めた。

「さぁ、戻ってきた。どの学校だ?」
司会者が入り口からの映像を小型のモニターで見ながら会場内に実況している。
誰かが戻ってきたのだ。
会場内に緊張感が走る。特にリーチがかかっている学校は「うちか?」と両手を握る。
「緑のゼッケンだ。これは知力の会場からの選手だ。誰だ?」
会場内に緊張感が増す。
一方、詩織たちは緊張感がゆるんだ。
「知力は関係ないもんね、あたしたちは……」
夕子の言うとおり、きらめき高校は詩織、未緒ともに帰ってきているために関係ない。
「館林女子だ。群馬代表・館林女子高校の菊池さんが戻ってきました」
司会者の絶叫と共に入り口から一人の少女が入ってきた。
奥のテーブルで二人の少女が飛び上がって喜んでいる。
「館林女子高校、三人が揃いました。準決勝進出!!」

「北斗農業、佐藤君。九十九点」
佐藤は七回目の採点でも満点に届かなかった。
知力の会場も残り人数が少なくなっている。
「あと……一問……」
佐藤は残る気力を振り絞り、開架室へと走った。

「きらめき高校、早乙女君。マイナス……0.50kg。OKです」
計測員が体重計のデジタル数値を読み上げて言った。
「さ……サンキュ……」
目の周りは落ち込み、皮膚もカサカサに乾いてグロッキー状態で好雄は体重計を降りた。
「君、……大丈夫かね? 脱水症状を起こしているんでは……」
心配そうに駆け寄った医師とスタッフを好雄は手で制した。
「あはは……大丈夫っすよ。早乙女好雄、やるときはやるんだから。
 あと、5キロのマラソンか……楽しいったらありゃしない」
好雄は立ち上がるとフラフラしながら走り始めた。
(よし……いっちょ夕子に、……男を見せるか……)
脇のペットボトルの水を口に含み、体内に水分を送り込むと好雄は建物を出た。

パラッパラパッパ……

「き……来たぁ……揃ったぁ……」
田代が両手を上げて万歳をした。
遂に田代の台がフィーバーした。
「これで……また虹野さんに会える……」
田代は中央のチャッカーが大きく開いたのを確認すると玉を打ち出そうとした。
「!!」
その瞬間田代は自分の目を疑った。
「ない……」
打ち出す玉を入れてある上の皿に、玉はなくなっていた。
最後の一発がデジタルを揃えたのだった。
「どうしよう……」
フィーバータイムには時間制限がある。
一定時間玉が入らないとフィーバーは強制終了してしまう。
「くっそう!」
田代がレバーを叩いたその瞬間だった。
下の皿の奥に引っかかっていたのか玉が一発だけでてきた。
「これが……ラストチャンス……」
田代はその玉を上の皿に入れるとレバーを回した。
これが入れば、OK……入らなければ一からやり直しだ。
「頼む!」
玉が打ち出された。

「北斗農業、佐藤君。満点です」
「よっしゃぁ!!」
佐藤はガッツポーズをすると、図書館を飛び出した。
「まだ……間に合うのか……間に合うよな……」
佐藤は自転車を一心不乱に漕いだ。
(間宮……田代……待たせて悪いな……)

「東大寺学園、通過!」
「高知学芸、通過!」

メイン会場では新たに二チームが通過を決めた。
詩織のチームと並んで優勝候補に上げられている奈良代表の東大寺学園の体力選手が戻ってきて通過を決める。
その直後、前半苦戦していた高知代表・高知学芸高校の知力選手と時の運選手が同時に帰ってきて、一気に準決勝進出を決めてしまった。
「さぁ、残る席は後二つ……どのチームか?」


「シオリン……大丈夫だよね……」
夕子が隣にいる詩織に声をかけた。
「大丈夫よ……公くんも早乙女君も帰ってくるわよ……もうすぐ……」
詩織が夕子に言った。
「そうだよね……絶対帰ってくるよね。あいつ……女の子をこんなに待たせて……
 帰ってきたら、ハンバーガー奢らせなくっちゃね」
夕子がそう言うと、思わず可笑しさに詩織が吹き出した。
「プッ……もう……ひなちゃんったら……」

「北斗農業の方……戻ってきませんね……」
未緒がそんな時、隣のテーブルを見た。
『北斗農業』と書かれたテーブルは完全に空席だった。一人も戻ってきていない。
「未緒ちゃん、大丈夫だって。田代君はもうすぐ来ると思うから」
沙希が未緒に言った。
「違うよ、沙希。未緒が気にしてるのは佐藤君。田代君は沙希が気にしてるんでしょ」
夕子が横から突っ込んだ。
「ち、違うわよ……」
「わ、私だって……そういうつもりでは……」
未緒と沙希が真っ赤になって夕子に抗議した。
「プッ……」
詩織がまたもや吹き出しそうになった。
その時、司会者が叫んだ。
「あっと、二人戻ってきた。二人だ……どのチームだ?」
サッと緊張感が会場を支配した。

「公……それに間宮……何やってるんだ?」
フラフラと走っていた好雄が、公と間宮に追い付いた。
「何って……ちょっと忙しくってな……」
公が好雄に答えた。
「早乙女、悪いけど、主人を連れて先に行ってくれないか?」
間宮が好雄に言った。
好雄は間宮の足元を見た。はっきりとそれとわかるほど右足の足首が腫れ上がっている。
「おい、早乙女。頼むよ……こいつ……馬鹿だから……
 こんなことしていたらアウトだってわからないみたいで……」
間宮がそう言ったときだった。
「よいしょ……」
好雄が反対側から間宮の肩を担いだ。
これで間宮は公と好雄に両側から担がれた格好になる。
「お、おい、早乙女……」
「残念だな、間宮。俺も馬鹿だから。よし、公、行こうぜ」
好雄はそう言うと公と共に走り出した。
「これだけたくさんの参加者がいるんだ。
 こんな馬鹿が一人や二人いても構わないだろ?」
好雄が言った。
「だな」
公が笑いながら言った。
「お前達……」
間宮が口を閉ざした。

「田代……」
「佐藤……」
佐藤と田代は会場の前でばったりと出会った。
「よし、行くぞ!」
二人は走って会場に飛び込んでいった。
(最後の一問……できて良かった……)
佐藤は苦闘を振り返りながら階段を駆け上がっていった。
(最後の一発……入って良かった……)
田代も最後の一発の玉がチャッカーに吸い込まれていく瞬間を思い起こした。
二人の目の前に会場の入り口のドアがあった。
並んで入っていく。
その時、司会者が叫んだ。
「あっと、二人戻ってきた。二人だ……どのチームだ?」
佐藤と田代が並んで入っていった。
「北斗農業だ。ここまで一人も帰ってこなかった北斗農業の二人が帰ってきた」
司会者が絶叫する。
「佐藤さん!」
「田代君!」
未緒と沙希が二人に駆け寄った。

「おうおう……お熱いねえ……」
その光景を見ていた夕子が呟いた。
「うらやましんでしょ?」
詩織が言った。
「ば、馬鹿……シオリン……」
「ヨッシー……あたし……ヨッシーのこと待ってたんよ! ギューって」
詩織が夕子の口まねをしながら抱きしめる動作をした。
「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ。だれがあんな馬鹿……」


「クシュン……」
「好雄、さっきからくしゃみばかりだな……やっぱ風邪だろ?」
公が好雄に言った。


「よかったね……本当に良かったね……」
沙希が田代の手を握って我が事のように喜んだ。
「あの……虹野さん……」
手を握られて田代が真っ赤になる。
「嬉しいんだけど……間宮は?」
「え……あ、そ、そうね……間宮君は……まだみたいだけど……」
田代に指摘されて自分の行動に気づいた沙希が真っ赤になって手を離すと、現在の状況を説明した。
「ってことは……後2チーム……大丈夫かな?」
佐藤が後ろから呟いた。
「大丈夫です……って言っても……もう3チーム揃っての勝ち抜けはないんですね」
未緒が寂しそうに言った。
「未緒ちゃんは……自分のチームと田代君のチームが残らないかな、って思ってんでしょ」
沙希の言葉に未緒が慌てる。
「そ、そんなこと……」
「あ、赤くなった。そっか……未緒ちゃんがねぇ……」
「そう言う沙希ちゃんこそ……なんでしょ……」
「ち、違うわよ……」
この一角はトマトのように赤くなった男女4人が無言で見つめ合っていた。

「来た! 誰か戻ってきた!」
アシスタントディレクターが会場内の司会者に指示を送った。
「さぁ、誰か戻ってきたようです。誰だ? この赤いゼッケンの色は体力ですね。
 体力の選手が戻ってきました。しかも三人……これは……」

司会者が目を丸くする。
「どうします?」
慌てて司会者が調整ルームにいるディレクターに指示を求める。

「よっしゃぁ! 会場のメインモニターに切り替えろ! これはドラマだ!」
ディレクターがスタッフに指示を飛ばす。
慌てて技術スタッフが司会者席の小型モニターにしか移らなかった映像を会場内のメインモニターに映した。


「公くん!」
「ヨッシー!」
「間宮!」
詩織たちが一斉に声をあげた。
メインモニターに映ったのは間宮を両側から支えながら会場に入ろうとしている公と好雄だった。
「間宮……怪我したのか……」
田代が呟いた。佐藤は無言だ。
「公くん……凄いね……」
沙希と詩織が目に涙を浮かべながら呟いた。
「ヨッシー……」
「早乙女さん……」
夕子と未緒も言葉がなかった。
映像の中の三人は廊下を抜け、会場内へと姿を現した。


「今……きらめき高校の2チームと……北斗農業の選手がゴールイン
 ……しかし……これは……」

司会者も悲壮感の漂うゴールに言葉を失った。
そして、会場内の全員が同じ疑問を持った。

『あと2チームなのに……3人が同時にゴール……どうするんだ??』

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル13:「それぞれの戦い(4)」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
感想投稿数0
感想投稿最終日時2019年04月12日 21時50分27秒

旧コンテンツでの感想投稿(クリックで開閉します)

評価一覧(クリックで開閉します)

評価得票数(票率)グラフ
6: 素晴らしい。最高!0票(NaN%)
5: かなり良い。好感触!0票(NaN%)
4: 良い方だと思う。0票(NaN%)
3: まぁ、それなりにおもしろかった0票(NaN%)
2: 可もなく不可もなし0票(NaN%)
1: やや不満もあるが……0票(NaN%)
0: 不満だらけ0票(NaN%)
平均評価NaN

要望一覧(クリックで開閉します)

要望得票数(比率)
読みたい!0(NaN%)
この作品の直接の続編0(NaN%)
同じシリーズで次の話0(NaN%)
同じ世界観・原作での別の作品0(NaN%)
この作者の作品なら何でも0(NaN%)
ここで完結すべき0(NaN%)
読む気が起きない0(NaN%)
特に意見無し0(NaN%)
(注) 要望は各投票において「要望無し」あり、「複数要望」ありで入力してもらっているので、合計値は一致しません。

コメント一覧

コメントはありません。