「ヨッシー! 大丈夫? ヨッシー!!」
夕子が好雄に駆け寄った。
全身汗にまみれ、ゼイゼイ言っている。
床に倒れ込んだ好雄を夕子は抱き起こした。
夕子の服に好雄の汗が染み込んでいくが気にしていない。
「夕子……か……はぁはぁ……待たせて……わりぃな……」
「ばか……ホントにあんたは馬鹿なんだから……」
夕子が涙を流しながら好雄に言った。
「でも……ちょっとだけ……格好良かったよ」
「惚れたか?」
「馬鹿……」
そう言って夕子は顔を真っ赤にして、好雄の鼻の頭をピンと指ではじいた。
「公くん……大丈夫?」
テーブルからコップの水を持ってくると詩織は公の口に含ませた。
「あぁ……大丈夫だ……ごめん……遅くなって……」
「ううん……いいのよ」
詩織は首を左右に振った。
「でも……本当はもっと早く帰れたのに……」
公はそう言ったが詩織は公に最後まで話させることはしなかった。
「格好良かったよ……公くん……
あの状況で、間宮君を放っておいて一人で帰ってくるようなら……絶交しちゃうところだった」
「詩織……」
「ご苦労様……」
詩織は公にそう言うと、誰も自分たちを見ていないのを確認して、公の頬にチュッと唇をつけた。
「イテテテ……」
沙希が間宮の足首の状況を見ている。
軽く沙希が足首を触っただけだったが、間宮は激痛に絶叫した。
その時、間宮の目には公の頬にキスする詩織が映った。
(これで、よかったんだよな……)
間宮は目を閉じた。
(これ以上見てるのは……辛いよな……)
「ただの捻挫じゃ無いみたい……」
その時、沙希が言った。
「もしかしたら……折れてるかも……」
「もしかして……って……骨折……ですか」
田代と佐藤が沙希に尋ねた。
「……うん……」
沙希が頷いたとき、未緒がスタッフと共に医者を連れてきた。
医師がすぐに間宮の足首を診断し始めた。
「ぐぁ!」
医師が踵に触った瞬間、間宮が絶叫した。
「足首はただの捻挫だけれども……それを引き起こしているのは踵の骨折ですね。
レントゲンを撮ってみないと何とも言えませんが」
医師が言った。
「すいません……」
間宮が駆け寄ってきたスタッフに話しかけた。
「どうしたのかな?」
「三回戦の状況は聞きました。うちはここで辞退します」
「え?」
沙希と未緒が同時に声を上げた。
「どうして……」
「この足じゃ無理だからな……いいだろ?」
間宮は佐藤と田代に言った。
「三人はチームメイトじゃないか。
勝つときも負けるときも一緒だ。
だから辞退も三人一緒じゃないか……俺は辞退に賛成だ」
「俺も賛成だ。
……そこまで無理するなよ、間宮。格好良すぎるぜ」
田代と佐藤が答えた。
「というわけです」
間宮が三人を代表して再度、辞退を宣言した。
「もともと、終わっているんです。
主人と早乙女に肩を借りた時点で。
僕たちは一片の悔いもありません」
スタッフが黙って頷いた。
北斗農業の辞退により、きらめき高校の二チームの準決勝進出が決定した。
三回戦終了後、敗退チームは帰郷の準備を整えてホテルのロビーに来ていた。
勝利チームは自由行動となっていたのだが、きらめき高校の六人は北斗農業の見送りにロビーにやってきていた。
「手紙……書くから……」
「はい……お元気で……」
佐藤が未緒と握手を交わした。
「き、如月さん……」
「はい……」
「その……俺……」
佐藤の顔は自分を見つめる未緒の目に真っ赤になっていった。
「や、やっぱりいいや……」
「え、何ですか……いいですから言って下さい」
「でも……」
向かい合って立つ二人、未緒の後ろで夕子と好雄が何か口をパクパクさせている。
(ん?)
佐藤が怪訝そうにする。
パクパクしている二人の口の動きを佐藤は読んだ。
(がんばれ……勇気を出せ!)
二人は未緒の後ろから佐藤に声援を送っていた。
(朝日奈さん……早乙女君……よし……)
「あ、あの……」
「はい、なんでしょうか?」
「俺……高校卒業したら……東京の大学に進もうと思ってるんだ!」
「そうなんですか」
「そしたら……」
チラリと佐藤が未緒を見る。
未緒は真っ赤になって次の言葉を待っていた。
(行け! あと少し!)
夕子と好雄も拳を突き上げて佐藤を後押しする。
「そしたら……東京を案内してくれませんか!」
佐藤が未緒に叫んだ。
(ば、馬鹿! 何言ってんの!)
夕子と好雄が佐藤を責める目つきをする。
しかし、未緒は……
「……プッ……ふふ……はい、いいですよ」
一瞬キョトンとしたものの、すぐに笑顔で答えた。
「それじゃ、絶対に、また会いに来るから!」
「はい、約束ですよ」
二人は再び握手をした。
「あの……あのね……田代君……」
沙希はロビーのソファで田代と並んで腰掛けていた。
「どうしたの?」
「あの……あのね……また……会えるかな?」
「もちろん!」
「本当?」
田代の答に沙希の表情がパッと明るくなった。
「高校卒業したら、虹野さんに会いに来るから。その時は……」
「その時は……?」
沙希が田代を見つめた。
田代の顔も真っ赤に染まっている。
「に、虹野さんの手料理食べたいな……」
「え? わ、わたしの……?」
「だって、ほら、昨日のディナーの時言ってたじゃない。料理が好きだって……
だから……虹野さんの手料理を……食べたいな……」
「ありがとう……嬉しいな。食べてくれる人がいるって言うのは……」
「これ……俺の電話番号」
田代は一枚のメモ用紙を沙希に手渡した。
「あ、それじゃ私も……」
沙希も慌ててポケットからメモ用紙を取り出して田代に手渡した。
「電話するね」
「うん……私も……約束だよ……必ず、会いに来るって……」
「うん……」
「指切りげんまん……嘘ついたら、針千本のーます……指切った」
二人の周りだけが妙に明るい……そんな空気が流れていた。
「藤崎さんは?」
間宮は詩織の姿が見えないのを怪訝に思って公に尋ねた。
「あ、もうすぐ来ると思う」
公は答えた。
(詩織、何やっているんだ! 間宮達行っちゃうぞ……)
「主人……」
松葉杖をついた間宮が公に話しかけた。
「お前……いつになったらはっきりさせるんだ」
「言われなくても……」
「ばーか、そんなこと言ってると藤崎さんが……」
「大丈夫、……卒業式の日には……」
公が答えた。
「ってことは……お前も藤崎さんのことが好きなんだって解釈して良いんだな」
「え? あ、そ、そういう……え??」
間宮の誘導尋問に引っかかった公が慌てる。
「慌てるまでもないよ。お前の態度見てたら見え見えだから……」
「間宮……」
「いいって……
何となくわかるよ。藤崎さんがどうしてお前が好きなのか……
お前のどこが良いのか……この二日間でわかった気がする。だから……」
「だから?」
公は聞き返した。
「耳貸せ」
間宮が手招きした。
公は間宮のそばに近づき、耳を間宮の口元に寄せた。
「ゲボッ」
間宮の拳が公の腹にめり込んだ。
「ま、間宮……」
「そういう、馬鹿正直なところがお前の良い所なんだからな。絶対に忘れんなよ!」
間宮は公の耳元で囁いた。
「あぁ……」
公は頷いた。
「どうしたの? 何を話しているの?」
後ろから声がした。振り返ると詩織だった。
「し、詩織!」
「耳元で何か話して……なーんか、いやらしいな……」
「そ、そんなことないって……」
公が慌てる。
「あ、公くん。僕のこと、遊びだったの?」
間宮が声色を使って公ににじり寄った。
「ば、馬鹿! 間宮」
「ふふふ……」
「あはは……」
「ははは……」
三人は共に笑いあった。
「そうそう……忘れるところだった……」
間宮は鞄から一枚の旗を取り出した。
「これ……持ってってくれないかな」
「これ……って……もしかして……」
旗を受け取った公が、目の前に広げてみた。
「……俺達の校旗……こいつだけでも決勝に連れていってやってくれないかな」
「うん、わかったわ。
でも……そのためには次の準決勝も勝たないとね」
「大丈夫だって。きらめき高校なら間違いなく勝てる」
間宮が自信満々に言った。
「そうよね……北斗農業の分も頑張らないとね」
詩織が頷いた。
そこへ、田代や佐藤、そして沙希、未緒、好雄、夕子もやってきた。
「元気で……」
「うん、頑張って」
「それじゃ……」
お互いに握手を交わす。
「じゃ、シオリンさん……」
間宮は初めてここで会ったときと同じ呼び方で詩織を呼んだ。
「え? あ、うん……」
間宮が差し出した右手を見て詩織も手を差し出した。
二人はガッチリと握手を交わした。
「送迎のバスの用意ができました。急いで下さい!」
入り口からスタッフが叫んでいる。
「それじゃ……」
間宮達はバスへと向かって行った。
「間宮君……佐藤君……田代君……私たち頑張るから!」
三人の後ろ姿に詩織が叫んだ。
田代と佐藤に両脇を支えられた間宮が向こうを向いたまま右手を突き上げた。
指がVサインを示していた。
こうして長い戦いの一日が終わった。
三回戦が終了した。
ここまで残っているのは5チーム。
東京都代表・きらめき高校(藤崎チーム)
東京都代表・きらめき高校(朝日奈チーム)
群馬県代表・館林女子高校
奈良県代表・東大寺学園
高知県代表・高知学芸高校
いよいよ明日は準決勝……果たして決勝に駒を進めるのはどのチームか?
全国、21,586チームの頂点に立つのは、どのチームか……
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 栄光への道 第3部 全国大会編 |
サブタイトル | 14:「想い伝えて……」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数 |
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感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 00時47分08秒 |
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