「おはようございます」
翌朝、詩織たちはホテルを出るとバスに乗せられた。
バスは一路西へと進路を取った。
そのバスの中で司会者が5チーム十五人の高校生に朝の挨拶をした。
「おはようございます」
詩織たちも司会者に朝の挨拶をした。
「さて、皆さんに質問です。今年の高校生クイズ、決勝はどこで行われるのでしょうか?」
司会者の言葉に全員が首を捻った。
「富士山だったりして……」
夕子が呟いた。
「するどい!」
司会者が夕子を指差した。
「今年の高校生クイズの決勝は久しぶりに富士山の頂上で行います」
「うぉぉ!」
全員の口からどよめきが起きた。
「そして、このバスは河口湖に向かっています。準決勝は河口湖湖畔で行います」
司会者が宣言した。
バスが河口湖に到着すると、全員がスタッフに誘導されて歩いていった。
「あ!」
好雄が声を上げた。
全員が好雄が指差す方を見る。
そこは湖が一望できる展望台になっており、さらに5台の早押し席が用意されていた。
「それでは、各チーム自分の学校名が書かれている席にお着き下さい。
ただ今より準決勝を行います」
司会者が宣言した。
詩織たちは無言で自分たちの席へと移動していった。
「遠藤さん、本当にこのルールで行くんですか?」
中継バスの中で、赤井の後輩であるスタッフが、昨日赤井からルールについて受けた指摘をチーフプロデューサーに話していた。
「ん〜……確かに的を射た指摘だがなぁ……もう今更変えられないし……
変えてしまうときらめき高校の関係者の指摘と言うことで問題も生じるからな……」
「それはそうですが……」
「番組的にはきらめき高校の2チームが揃って決勝に残って貰いたいのは事実なんだ。
それは確かだが……」
遠藤が腕組みをしている。
「だったら……遠藤さん。マジでこのルールだと強豪が落っこちますよ……」
「東大寺学園か……きらめき・藤崎か……だろ?」
「ええ……」
「それならそれで仕方がないさ……それもルールだ」
遠藤が決断した。
「全国高等学校クイズ選手権、準決勝を迎えました」
司会者が全員が席に着いたのを確認すると、ゆっくりと話し出した。
向かって右から、きらめき高校・朝日奈チーム、館林女子、東大寺学園、きらめき高校・藤崎チーム、高知学芸と並んでいる。
「きらめき高校・朝日奈チーム、あなたたちの最大のライバルはどこですか?」
司会者が夕子達の方を向いて尋ねた。
「もち、藤崎さんのチーム!」
夕子が間髪入れずに答えた。未緒と好雄も頷く。
「館林女子高校、最大のライバルはどこですか?」
司会者は隣の女性三人組のチームに尋ねた。
「東大寺学園です」
「いま、指名を受けました東大寺学園、最大のライバルはどこですか?」
司会者が隣に目を向けて尋ねる。
「きらめき高校の藤崎さんのチーム」
東大寺学園はチラリと隣の詩織たちを横目で見ながら答えた。
「では、その藤崎さんのチーム、最大のライバルはどこですか?」
「……東大寺学園です」
少し悩んで詩織は答えた。
(ひなちゃんもライバルだけど……やっぱり全国制覇への最大の障壁は……東大寺よね)
公と沙希もそんな詩織を見てから、隣の東大寺学園を見た。
そして、コクンと頷いた。
「最後に高知学芸高校、最大のライバルはどこですか?」
「きらめき高校の藤崎チームです」
やはり詩織のチームはマークがきつい。ペーパークイズ全国一位が物を言っている。
「きらめき高校・藤崎チームが3票、東大寺学園が2票。
やはりこの二チームが最大のライバルと見られているようです。
ここで行いますクイズは、そんなライバルを徹底的に痛めつけて勝ち抜くクイズです」
司会者が全員を見回して宣言した。
「それではルールを説明します。
早押し封鎖クイズです。全チームに問題を出します。
正解したチームは好きなチームを1チーム封鎖して下さい。
封鎖されたチームは封鎖されている間はクイズに答えることができません。
残ったチームに再度問題を出します。正解チームはまた一チームを封鎖します。
こうして封鎖していって、最後に残ったチームが勝ち抜けとなります。
勝ち抜けチームが出た時点で、全チームの封鎖を解除し、また全体にクイズを出します。
なお、お手つきは一回休みとします」
「まずいわね……」
詩織が呟いた。
「え?」
沙希が詩織の方を向いた。
「うちはマークされているから……真っ先に封鎖されるわよ……」
「でもうちが真っ先に答えれば良いんだろ?」
公が詩織に言った。
「それはそうだけど……でもその次の問題を他のチームに正解されたら……」
「あ……」
公が声を漏らした。
「ってことは……最初から最後まで正解し続けないと……だめってこと?」
沙希が尋ねた。
「そうね……封鎖されないためには、全チームを封鎖するまで正解し続けるしかないわ。
そうでないと……うちが封鎖される。
でも他のチームも一応準決勝まで残っているチームよ……そう簡単には……」
「連続正解は難しいよね」
公が詩織の後を受けた。
「でも……根性で頑張るしかないね……」
沙希が二人を勇気づけるように言った。
「準決勝を開始します。落ちるのは……この中で、たった1チームだけです」
司会者が宣言した。
全員がボタンに手をかけた。
「問題、皮膚をひっかかれた跡が赤く腫れることを、ある生き物の名前を使って『何腫れ』というでしょう?」
ある生き物、のところで公が勢いよくボタンを押した。
「藤崎チーム!」
司会者が指差した。
「ミミズ腫れ」
ピンポンピンポン……
公が正解した。
「正解です。きらめき高校・藤崎チーム幸先よく発進しました。
さて、どのチームを封鎖しますか?」
司会者が尋ねてきた。
詩織は沙希と公に耳打ちした。
(……でいいわよね)
公と沙希はコクンと頷いた。
「では、東大寺学園を封鎖します」
詩織は最大のライバル東大寺学園を封鎖することにした。
少しでも連続正解する可能性を高めるためには当然の策だ。
一人のスタッフが東大寺学園の早押し席の前に大きく“×”の書かれた札を貼った。
東大寺学園の三人は後ろの椅子に座り、しばらく待機となった。
「では残った4チームに問題です。
問題、グリム童話でお馴染みの“眠り姫”で姫が眠りについたのは何の針で手を刺されたからでしょう?」
何の、と言う部分で未緒が動いた。
「朝日奈チーム!」
「糸車」
ピンポンピンポン……
文学問題はお手の物、未緒が正解した。
「ではきらめき高校・朝日奈チーム。どのチームを封鎖しますか?」
司会者が尋ねた。
「ちょっと……」
夕子が未緒と好雄の耳に何か言った。
「え?」
未緒の顔色が変わる。
「本気ですか?」
「当たり前っしょ。うちは優勝するんだから……」
夕子が躊躇う未緒に言った。
「それはそうですけど……」
未緒の心配を余所に、夕子は司会者に言った。
「藤崎さんのチームを封鎖します」
早押し席に×マークを着けられ、詩織たちは後ろの待機席に腰を下ろした。
「ひなちゃん……情け無用ね」
沙希がポツリと言った。
「ううん……当然よ」
詩織が不満そうな沙希に言った。
「同じ高校というのを頭から取り外して、常識的に考えれば、次に封鎖されるべきはうちよ」
「そうだよなぁ……」
公が呟いた。
「ここで、情を挟んでうちを封鎖しないようなら……ひなちゃんとは絶交だったわ……
さすがひなちゃんね……」
詩織がニヤリと笑った。
残った三チーム問題が出されていった。
「冬に自動車の冷却水に加えるエチレングリコール液などを普通何と言うでしょう?」
高知学芸高校のランプがついた。
「高知学芸!」
司会者が指名する。
「不凍液」
ピンポンピンポン……
三問目は高知学芸高校が正解した。
「では高知学芸高校……封鎖するのはどのチームですか?」
司会者が尋ねた。
夕子がゴクリと生唾を飲み込んだ。隣では館林女子高校も同じように緊張している。
「館林女子を封鎖します」
少し悩んで、高知学芸高校が選んだのは、3回戦でトップ抜けを果たしている館林女子高校だった。
「ふ〜……」
夕子が安堵の息をもらした。
「うちじゃなかった……」
「そうだよな……如月さんがマークされれば、次はうちだと思ったんだけど……」
好雄も同感と言った表情だ。
未緒は3回戦の知力ステージをトップで抜けているだけにマークされる可能性が高かった。
しかし、高知学芸が選んだのは総合で3回戦トップの館林女子だった。
「でも、これで……後、一つですね」
未緒が呟いた。
「そ、次は勝負だかんね。行くよ」
「よっしゃ」
夕子の言葉に好雄も応える。
「残ったチームは高知学芸ときらめき高校・朝日奈チーム。
さぁ、これで一チーム決まるのか……問題……」
司会者が二チームに問題を読み上げ始めた。
「インディカーシリーズはアメリカではF1以上に人気がありますが、このレースでマシンの燃料として使われているのは何でしょう?」
夕子の手が動いた。
「朝日奈チーム!」
「メタノール!」
ピンポンピンポン……
「やったぁ!!!!!」
「よっしゃぁ!」
夕子が飛び上がった。未緒と好雄も夕子に飛びつく。
「きらめき高校・朝日奈チーム、勝ち抜け!!!!」
司会者が絶叫する。
「ちょ、ちょっとヨッシー! どさくさに紛れてどこ触ってんのよ!」
夕子に飛びついた好雄の手が胸をなでた瞬間、夕子の平手が好雄の頬に紅葉の跡をつけた。
真っ先に準決勝を突破したのは……きらめき高校・朝日奈チームだった。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 栄光への道 第3部 全国大会編 |
サブタイトル | 15:「優勝候補」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数 |
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感想投稿最終日時 | 2019年04月12日 07時55分30秒 |
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