「勝ち残るのはどちらか……問題です」
司会者が問題文を読み上げ始めた。
(……これを獲らないと……)
沙希はボタンに掛ける指に力を込めた。
(東大寺学園より先に押さないと……)
公も体を前に乗り出すように司会者の読み上げる問題に集中した。
(……勝負……)
詩織も表面上は冷静に……しかし、内心は熱く燃えていた。
「石油輸出国機構は通称オペック、ではアラブ……」
ピンポン!
詩織は完璧なポイントでボタンを押した。
ここしか無いというポイントで……
「きらめき高校!」
司会者が指差した。
(オペック……と振って……アラブ……これしかないわね……)
詩織はカメラを見つめながら答えた。
「オアペック!」
ブ、ブブーー……
「え???」
詩織は呆然とした。
(どうして……そんな……)
「残念、問題は、ではアラブ馬にも負けるくらい弱いとまで酷評された、ダービー勝利後、1勝もできずにターフを去った、第四十七代ダービー馬は?
で、正解は、オペックホースとなります。きらめき高校、一問の休みです」
司会者は淡々と問題を最後まで読み上げた。
(そんな……ここで間違えさせる問題なんて……)
詩織は呆然としている。
「大丈夫、最後まで諦めないで」
沙希と公が詩織を励ました。
詩織は無言で頷いた。
そして、チラッと夕子に目をやった。
(シオリン! ファイト! まだ、可能性はあるよ!)
夕子の目が訴えていた。
(うん……わかっている……でも……ダメかも知れないね……)
詩織が完全に意気消沈しているとき、司会者が詩織に話しかけた。
「絶体絶命、きらめき高校。大丈夫か?」
詩織は無言で頷いた。
「よし、あきらめるな。先に勝ち抜けた朝日奈チームが待っているぞ」
(そうよね……僅かしか可能性はなくても……諦めたらそれで終わりよね……)
「詩織、諦めないぞ、俺は」
公は自分のシャツを捲り上げて詩織に見せた。
「あ……」
詩織は危うく大声を出すところだった。
公の腹には、間宮たちから預かった、北斗農業の校旗が巻き付けられていた。
「そうよね……間宮君たちの分も頑張らないとね」
詩織は大きく頷いた。
「そうよ、ここで諦めちゃったら、田代君に悪いわよ」
沙希が言った。
「ふふふ……田代君に悪いと思うのは虹野さんだけでしょ……」
「そ、そんな……」
沙希をからかう余裕が詩織に甦った。
「よし、大丈夫だ。もう一回くらいチャンスはある」
「うん……わかった、公くん……」
公の言葉に詩織は再度頷いた。
「では、東大寺学園だけへの出題です」
司会者が読み上げた。
「問題、水泳の個人メドレー、最初の泳法は何?」
ピンポン!
最後まで問題を聞いた後、東大寺学園がボタンを押した。
「東大寺学園!」
司会者が指名をした。
(負けた……)
詩織は覚悟を決めた。
簡単な問題だ。東大寺学園ともあろうチームがこのレベルで間違えるはずがない。
(終わった……何もかも……)
「背泳ぎ!」
東大寺学園のキャプテンが叫んだ。
(え!)
詩織の顔に生気が蘇った。
(まだ……行ける……)
ブ、ブーーーーーー
不正解のブザーと共に司会者が言った。
「違います。それは『メドレーリレー』最初の泳法です。
個人メドレーはバタフライが先です」
「あ!」
東大寺学園のキャプテンが自分の勘違いに気づいた。
「くっ!」
悔しそうな顔をして、復活するきらめき高校と入れ違いに、東大寺学園が一回休みになった。
「さぁ、チャンスが巡ってきました。きらめき高校。このチャンスを物にできるか、問題……」
司会者が詩織たちの為だけに問題を読み上げた。
「数ある宝石のうち、唯一、尺貫法で取り引きされる宝石は何?」
詩織は沙希と公に耳打ちした。
「……でいいわよね」
沙希と公は頷いた。
「任せた、詩織」
「藤崎さん……任せるわ」
詩織は二人に確認して、そしてボタンを押した。
「きらめき高校!」
司会者が詩織を指差した。
(シオリン……)
夕子は目を閉じていた。
(大丈夫……シオリンなら大丈夫……)
「真珠!」
詩織の答えの後、一瞬の空白があった。
そして……
ピンポンピンポン……
「やったあぁぁぁ!!」
「よーし!!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
詩織に沙希と公が飛びついた。
「準決勝最後の通過チームは、きらめき高校・藤崎チーム!!!!!!」
司会者の絶叫が響いた。
「シオリン、お疲れさま」
夕子が詩織を迎えた。
「ありがと……苦労したわ……ダメかと思った」
夕子の差し出した手を詩織は握り返した。
「いよいよ……決勝だね」
夕子が詩織にウィンクして言った。
「うん……だと思うんだけど……」
詩織は奥歯に物が挟まったような言い方をした。
「どったの? 何か気になることでもあるの?」
夕子は聞き返した。
「それがね……」
詩織は未緒、好雄、沙希、公を見回した。
そして小さな声で言った。
「通常、決勝は3チームでやっていたのよね……今年だけ4チームになったのかしら?」
「……う〜ん……でも、これで準決勝は終わりみたいだぜ」
好雄が言った。
周囲ではスタッフは早押し席を片づけている。
「だと……いいんだけど……」
詩織は不安そうだった。
そうしているとスタッフが詩織たちを誘導していった。
登山のために着替えを行うのだ。
詩織たちはスタッフが用意してあった登山用の服に着替えをした。
「ほら、もう登山じゃんか。シオリンは考えすぎなんよ」
夕子がそう言ったので詩織たちの話は中断されることになった。
「では、これより登山口に向かいます」
登山口までバスで移動した一行は、バスを降りると歩き始めた。
先頭に立つ司会者に連れられ、詩織たちは登山口に向かった。
「はい、ここが富士山登山口です。
では折角ですから、杖を買って、記念の焼き印を押して貰いましょう」
司会者がスタッフから登山客用に売られている金剛杖を受け取って配ろうとした。
「では各チームに配りまーす……え? あれれ?」
司会者が本数を確認する。
「ねぇ、ディレクター。どういうこと? 金剛杖が3チーム分しかないんだけども……」
「わざとらしい……」
詩織はクスリと笑った。
「やっぱ、そういうことか……」
公も笑った。
周りの高校生も事態を把握した。
「あ、そう……やっぱり3チーム分しかないんだね……仕方がないなぁ……」
司会者は下手な芝居を続けていた。
「では、ここで入山を賭けての最終関門クイズを行います。
題して、『目指せ、頂上! 100点満点クイズ!』」
スタッフが大急ぎで4チームを横一列に並べた。
全チームに一枚ずつ小型の黒板とチョークと黒板消しが配られる。
「ルールを説明します。
これから出題するクイズは全部、答えが数字です。
全チームに答えをそのボードに書いて貰います。
正解すれば、その数字がそのまま得点になります。
不正解すれば、その書いた数字がそのままマイナス点になります。
いち早く百点満点を取った3チームのみ、頂上に向かいます。
わからない場合は何も書かないでおくことも結構です」
「では、問題です。日本の法律で、温泉とは温度が何度以上のことを言うでしょう?」
各チームが相談しながら黒板に答えを書いていく。
「公くん、わかる?」
「えっと……確か、……だったと思うんだけど……」
「わかった、信じるね」
詩織は沙希にも相談した上で、黒板に答えを書いた。
「これは確か……」
「え? 未緒知ってるの?」
自信ありげな未緒に夕子は聞き返した。
「はい、昔は、よく体の調子を整えるために温泉に行きましたから……」
「じゃ、決まりね」
夕子はサラサラっと答えを書いた。
「では上げて貰いましょう……ホールドアップ!」
司会者の合図で全チームが黒板を頭の上に上げた。
「館林女子高校……25度。高知学芸高校……棄権。
きらめき高校・朝日奈チーム……25度。きらめき高校・藤崎チーム……25度。
正解は……」
司会者が全員を見回して言った。
「25度です。館林女子、きらめき高校の両チームの3チームにプラス25点!」
頂上への最終関門クイズ、詩織と夕子のチームは幸先良いスタートを切った。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 栄光への道 第3部 全国大会編 |
サブタイトル | 17:「頂上への最終関門」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数 |
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感想投稿最終日時 | 2019年04月09日 07時46分13秒 |
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