サッカー部3回戦進出
きらめき高校の部活掲示板に張り紙がされていた。
「へ〜、サッカー部、また勝ったんだ」
「栄京に勝ったのは伊達じゃなかったんだな。ま、でもここらが精一杯だろう」


サッカー部5回戦進出
「へぇ……まだ負けてないんだ……」


サッカー部準決勝進出
「おいおい……」

「きゃぁーー!!」
「頑張って〜!!」
サッカー部の練習には日に日にギャラリーが増えていった。
「はは、なんか一躍人気者だな……」
「なんてったってベスト4だもんな」
部員達は浮かれている。
「バーカ! 人気者になったのは俺達じゃないよ」
純平は冷めた目で事態を見ていた。
「公だ。
 よーするに以前に比べておおっぴらに公のファンが声援送ってるだけだ。
 サッカー部の人気じゃない」
「そんな身も蓋もない言い方すんなよ……」
「中には一人くらい俺のファンがいても……」
部員達は微かな希望を言った。
「俺は事実を言ってるんだよ」
純平は冷静に事態を把握していた。


「あの……あの……」
水飲み場に来た純平に一人の女の子が声をかけた。
「あの……これ……」
その少女は手紙を純平に渡した。
「あ、公ね。後で渡しとくよ」
純平はタオルで顔を拭きながら受け取った。
「くそっ……なんで公ばっかりなんだ……」
部員達は諦めの境地だった。
「あの……違うんです……それ、神島さんに……」
「え゛?」
純平と部員達は固まったままだった。
「おれ??」
「よ、読んで下さい……」
そう言うと少女は去って行った。
「もう、これじゃ、練習にならないじゃないの……」
入れ違いに沙希がぶつぶつ言いながら純平の所にやってきた。
「ん? どうしたの? 純」
「いや……な、なんでもない!」

「おじゃましまぁす」
沙希はいつものように純平の家にあがると、二階の純平の部屋へ、階段をのぼって行った。
(へへ、純、喜ぶぞ。見たがってた映画の試写会のチケットあたっちゃった……)

部屋では純平が手紙を読んでいた。

拝啓、神島純平様

突然こんな手紙を差し上げる事をお許し下さい。驚かれたかもしれませんね。
………………

その手紙は純平へのラブレターだった。

「明日十時、きらめき中央公園で待ってます。御迷惑でしょうか?
 でも、待ってます。ずっと待ってます。待つ事くらいは許してくださますよね。
 美樹原愛」

突然、背後から手紙を読む声がした。
「沙希!」
慌てて手紙を隠す。
(み、見られた……)
「隠すことないじゃない」
沙希は純平の目を見て言った。
「もちろん行くでしょ」
(え?)
「純の見たがってた映画の試写会当たったんだけど……いいや、私、公くんと行くから。
 純はロードショーでみるよね」
沙希は純平の気持ちそっちのけで話す。
「おれ、行ったほうがいいのかな?」
(やきもちの“や”の字も焼いてくれないのか……)
「当たり前じゃない。
 ずっと待ってるって書いてあるでしょ。今は冬なのよ」
「そうだな……」
沙希は立ち上がって純平のクローゼットを開けた。
「んっと……何を着て行くかだけど……」
沙希は純平の服を選び始めた。
「このズボンに……このシャツがいいかな……ジャケットはこれがいいな……
 あ、ちょっと薄着過ぎるかな……いいか、純は丈夫だもんね」
沙希は一揃いの服を出すとハンガーに掛けてタンスの前にぶら下げた。
「これでよし、ちゃんと着て行くんだよ」
そう言うと沙希は部屋を出て行った。

次の日、沙希と公は映画を一緒にみていた。
上映が終わると表に出てきた。
「おもしろかったね」
「うん」
公は沙希の言葉に頷いた。そして……
「でも、どうして僕を誘ったの?
 これって純平が見たがってた映画じゃないのかな?」
「純はいいの。今日はデートだから」
「デート?」
公の疑問に沙希が昨日の一件を説明した。


「それでいいの?」
「どうして?」
公の質問に沙希が聞き返した。
「純平がその子とつき合ってもいいの? 沙希ちゃん」
「え、だって、それは純が決める事だし……それにずっと待ってるって書いてあったのよ。
 行かないとかわいそうじゃない」
沙希は答えた。
(うん、そうだよ。かわいそうだよね。
それに純は別に私の……ってわけじゃないんだし……)
一方の公は……
(かわいそうなのは純平の方だな……
純平、同情するよ……同情するけど……手は抜かないからな)

そして、公は言った。
「時間あるし、動物園にでも行こうか?」

一方の純平はきらめき中央公園に到着した。約束の時計の下に行く。
一人の少女が立っていた。
「あの……」
そう声を掛けようとした時、純平を見つけた少女・美樹原愛は目に涙を浮かべた。
「ちょ、ちょっと……どうしたの?」
純平は愛に声をかけた。
「ごめんなさい……本当に来てくれるとは思わなかったので……」
愛はそう言った。


二人は近くのベンチに腰を下ろした。
先に純平が口を開いた。
「俺なんかのどこがいいの?」
「どこって…………ぜ、全部です」
「全部??(嘘だろ……)」
「はじめて神島さんを見たのはあの栄京との試合なんです」
愛は説明し始めた。
「友だちが公さんの知り合いで……誘われて行ったんです。
 そこで血を流して頑張ってる神島さんを見て……最後のシュートが決まったときは感激しちゃいました。
 いっぱい泣いちゃいました」
(そんな……俺……今日は断りに来たのに……)
純平の心が表情に出たのだろう。
「あの……迷惑でした?」
「え? いや……その……」
「知ってます。虹野さんが好きなんでしょ、神島さんは……」
ズバリと愛は言った。
「いい人ですよね、虹野さん……」
「うん」
「私、体育のクラスが一緒なんです。
 彼女ってなぜか自分の事より他人の事に一生懸命なんですよね」
愛は一人で話し続けた。
「私、運痴なんです。だからバレーボールとかみんなに迷惑かけるんです。
 みんな嫌がるんです、私が入ると。
 でも彼女だけは『がんばろ』って言ってくれて……でも、やっぱり迷惑かけるんです。
 だからお昼休みに一人で練習しようと思ったら、
 『バレーボールは二人の方が練習しやすいから……』
 って言って一緒に練習してくれて……
 それで、私がうまくできたら自分の事のように喜んでくれるんです。
 すごくいい人ですよね」
愛は一気にしゃべった。
「昔っからそうなんだ、あいつはいつも自分の事より他人の事の方が大切で……
 もし、海で遭難して、救命胴衣が人数分なくて、残り一つになっても、
 『はい、どうぞ。わたしはいらない』ってにっこり笑ってあげちゃうようなお人好しだから……
 だれかがついていてやらないと……」
「そうですね……」
愛は頷く。
「そうなんだけど……」
(沙希……もう俺はいらないか……)
純平の心の中は揺れていた。
「でも、沙希は公が好きだし……公はいい奴だから……
 俺、そろそろ諦めて……だから今日……」
(俺は何いってるんだ?)
愛の表情に笑みが蘇った。


純平と愛は並木道を歩いていた。
(かわいくて……素直な子だよな……)
純平がそう思っていたとき、
「あの……お願いがあるんですけど……」
愛が純平に言った。
「何?」
「純……って呼んでいいですか?」
「え?」
周りの人間はみな“純平”と呼ぶ。
“純”と呼ぶのは沙希だけだ。
沙希は、
『みんなが純平って呼ぶから、私は純って呼ぶ。私だけの呼び方だよ』
と言っていつも“純”と呼んでいた。

動物園では沙希と公が猿山の前に来ていた。
「あは、純そっっっっくり」
猿の動きを見て沙希は純を思い出した。
「ほら、純、そっくりだそっくりだ!」
そう言って沙希は後ろにいる人物の袖を引っ張った。
「あの……」
それは見ず知らずの他人だった。
「あ、ごめんなさい……」
(そうだ、今日は純はデートだもん。いないんだ……デート……なんだもんね……)
そんな沙希を見て公は思っていた。
(沙希ちゃんにとって振り向けば純平がいる。その図式が当たり前なんだな……)
「もう、やだな」
そう言って沙希は自分の頭をコツンと叩いた。


公は沙希とパラソルの下のベンチでジュースを飲む事にした。
その沙希の表情は少し曇っていた。
(純平、今日は沙希ちゃんの側にいるのは俺なんだぜ)
そう言って公は沙希にキスしようと顔を近づけた。
沙希が公を見つめる。
公も沙希を見つめる。
沙希の驚く顔を見て公は途中で止めた。
「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「いや、ごめん……なんでもなかったみたい……」
(ったく、何を焦ってるんだ)
そう考え公は沙希に言った。
「また、デートしてくれる?」
「え?」
「決勝で新田に勝ったら……その時にもう一度……」
「うん、いいわよ」
沙希はにっこり笑って答えた。
「言いたい事があるから……」
「今じゃダメなの?」
沙希は聞く。
「うん、今は……ダメなんだ。……きっと勝つから……その時に……」
「うん、勝てるよ……きっと」
そして、二人は帰路についた。
途中で、
「俺、寄るところがあるから……ここで……」
公は沙希と駅前で別れた。
「じゃまた明日ね」
沙希は公に手を振った。
沙希が見えなくなると公はゆっくりと階段を登った。膝に痛みが走る。
(さすがに寒い中立ちっぱなしだと堪えるな……)

公は階段を登り、『佐藤整形外科』と書かれたドアをくぐった。

沙希が帰って来ると、純平が家の前に立っていた。
「純……」
「オス……」
「ただいま。なにしてるの? こんなところで」
「デート楽しかったか?」
「う、うん……楽しかったよ。純の方はうまくいった?」
「俺は……謝ってきただけだから……」
純平は今日の出来事を思い出していた。


「純……って呼んでもいいですか?」
「ごめん……それだけは……」
純平は謝った。
「やっぱり……虹野さんのこと好きなんですね」
「え?」
愛の言葉に純平はうろたえた。
「本当に好きだったら……諦めちゃだめですよ」
愛ははっきりと言った。
「諦めちゃだめです……」
「ありがとう……ごめん……」
純平はまた謝った。
「いいんです……私だって諦めませんから……」
「え?」
「さようなら……今日はありがとうございました」


「謝ってきたの?」
沙希が問返した。
「うん」
「そう……そうなの」
沙希の顔に笑みが戻った。
「そうなんだ……で、何をしてるの? こんなところで……」
「星を見てたんだ」
「星? まだ出てないよ」
「俺には見えるんだよ」
再び愛の言葉が思い出される。


「試合頑張って下さいね。応援してますから」
「……」
「サッカーで頑張ってる姿が一番格好いいです。
 きっと虹野さんもそのうち気付くと思います」


「見てろよ……」
純平は沙希に言った。
「そのうち沙希にも見えてくるから……」
その時、夕暮れの空に一番星が輝いた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルヒーロー!
サブタイトル第6話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか
感想投稿数25
感想投稿最終日時2019年04月12日 20時16分04秒

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  • [★★★★★★] 首相撲からのチャランボ公園は花盛りです。
  • [★★★★☆☆] 純平と公以外の選手の名前が無いってのが気に入らない。目立たなくてもせめて名前は与えてあげて欲しい。
  • [★☆☆☆☆☆] 男の名字がいや