決勝の日が来た。


双方の選手はグラウンドで最後のウォームアップを行っていた。
「本当にここまできたんだな……」
公と純平が満員のスタンドを見て言った。
「あぁ、決勝だ」
新田がそんな二人に声をかけた。
「新田……」
「まさか本当にここまで来るとは……思ってもみなかったぜ。
 公、今はお前が敵であって良かったと思ってるよ。
 こんなに熱くなれたのは久しぶりだからな。
 全く……俺を熱くさせてくる男が二人もいるとは……嬉しいじゃないか」
そう言って新田は純平に視線を送った。
「そうですか……それはどうも。
 だけど、試合が終わった時、笑っているのは俺達ですから」
二人はにらみ合った。
「楽しみにしてるぜ」
そう言って新田は自分のチームの方に戻って行った。
「やっぱ、違うな……全国ナンバーワンだぜ。本当にあの人と試合すんのか……」
そう言っていたイレブンに純平が激を飛ばした。
「試合前からビビってどうする! 同じ高校生じゃないか!」
「わかってるよ……ベストは尽くすよ。悔いのないゲームを……」
「青春ドラマみたいな事言ってるんじゃねぇ! いいか、勝つんだ!」
もう一度純平が激を飛ばした。
(純……)
沙希は鞄を開けてイレブンに歩み寄った。
「公くん……これ、首に下げて。お守り……」
そう言って沙希は公の首にお守りをぶら下げた。
(沙希……)
純平はそう言う沙希を誇らしげに見た。
「いいな……」
「俺も欲しいな……」
イレブンがそう言ってると……
「はい、田中君……これは北沢君……で、これが岡野君……」
沙希は全員にお守りを手渡しで配りだした。
「みんなの分もあるんだ。昨日の夜急いで作ったんだけど……」
「あ、名前が縫ってある……」
「本当だ……島田ってあるや」
「下手くそでごめんね」
そう言う沙希の手は絆創膏だらけだった。
「あ、その手……沙希ちゃん……」
「こんなもの、大して役に立たないと思うけど……
 もう、ここからは女の私じゃ何もしてあげられないから……
 頑張ってね……もう、これしか言えないから……」
「なに言ってるんだよ。十分だよ、それで」
「頑張るよ、きっと勝つから」
イレブンが一気にやる気になった。
「純……」
沙希は最後のお守りを純の首にかけようとした。
「はい、首だして……」
だが、純平は沙希の手からお守りを取った。
「バカ、首にかけてやるのは一人でいいんだよ」
沙希の表情が不安そうになる。
「なんだよ、心配すんなよ。勝つからさ」
「うん」
沙希が安心して頷いたので、純平は公の方を向いた。
「公」
「なんだ純平?」
「大丈夫か?」
「大丈夫さ」
公と純平は見つめ合った。そして……
「ようし! 行くぞ!」
純平のかけ声でイレブンはグラウンドに飛び込んで行った。

さぁ、いよいよ決勝です。
 全国ナンバーワンの南都実業に対して、たった十一人のきらめき高校がどこまで食い下がるか

(沙希……公……行くぞ!)
ピピィ
キックオフされた。

はじまりました。ボールを持って攻めるのは天才新田君。
 さぁ、驚異の十人抜きが見られるのか?…………おぉっと新田君の足が止まった。
 珍しい……これは珍しい。新田君、前に出られません

今日の純平は徹底的に新田マークだった。
「この前みたいにはいきませんよ」
純平が新田を睨む。
「そうだな……」
そう言うと、新田はボールを蹴った。
あぁっと、新田君……体の向きとは反対の方向にパス!
「なに!」
「この前とは違うぜ、今日は俺の方にも十人の仲間がいるんだ」
純平の驚きをあっさりと新田はかわした。
新田君からのパスを受けた遠藤君。
 ドリブルで持ち込む。ゴール前フリーだ! シュート!!

バシィ
公は難なくこれをキャッチした。
止めた! やはり凄い、主人君。弱小チームをここまで引っ張ってきた天才キーパー。
 ここまで六試合で打たれたシュートは百五十九本。それをことごとく止めて失点0。
 彼には止められないボールは無いかのようだ。まさに“無失点の神話”!

「そうだよな、俺達には公がいるんだ。勝てる……きっと勝てる」
公のナイスセーブがイレブンの緊張を一気にほぐした。


(公、お前は大した奴だよ……しかし……)
新田はスライディングタックルでボールを奪い返した。
(取られた……新田をマークしていたのに……)
純平のマークを一瞬で外す。まさに新田のテクニックだった。


さぁ、ボールを奪い返した新田君、はやいはやい、攻めます!
 あっという間に三人……四人……誰も新田君を止められない……

(公、勝負だ!)
新田はシュート体制に入った。

新田君シュー……あ、ものすごい勢いで選手が一人突っ込んできた
「純!」
沙希が叫んだ通り新田にスライディングで突っ込んだのは純平だった。
しかし……
ああ、取れない。新田君ボールをキープしたままジャンプ
(追いついてくるのは解っていたさ)
新田はゴール前からシュートに行った。
(行くぞ、公!)

行った、至近距離からのドライブシュート! しかし、主人君も反応している
公は必死で手を伸ばした。ボールが指に触れる。
しかし……
バサッ
ゴーーーーーーール!!!!!!!
公の指をかすめたボールはゴールネットに突き刺さった。
(公くんが……点を取られた)
(公……)
(公が……点を取られた……)
沙希が、純平が、イレブンが……がっくりと肩を落とした。

前半五分、南都実業先制!
 決めたのはやはりこの人、新田駿! 天才対天才の対決は新田君に軍配が上がりました。
 いままで無失点でどんなシュートも止めると思われていた主人君の……神話が今、崩れさりました!


バシッ
公は地面を叩いてくやしがった。
「公……」
純平が声をかける。
「はは……取られちゃったよ」
心配かけまいと笑っているが、公のその顔は悔しそうだった。
「すまん、俺がちゃんとマークしなかったから……」
純平がそう言ったときだった、
「やっぱ、かなわないよ……」
「勝とうなんて……無理だったんだ……」
イレブンが一気に気落ちする。
「おい! お前ら! 何を弱気な事言ってるんだよ!」
純平が怒鳴る。
「だって……公が点を取られたんだぜ……」

「なんか、いきなり元気なくしてるな……あいつら」
南実では選手達がきらめきイレブンの姿を見てそう言っていた。
(きらめきにとって、公は紛れもなく神話だった。
一点もやらないスーパーキーパー、一点取れば勝てる……ってな)
「これで勝ったな……張りつめた糸が切れたようだもんな……」
そう言うイレブンを余所に新田は言った。
「おわっちゃいない……」

「なにを勝手な事言ってるんだ!
 点を取られて、先制ゴールされて……新田に負けて一番辛いのは、悔しいのは公なんだぞ!」
公がイレブンに叫んだ。
「何が神話だ、そんな物、最初から無かったんだ。
 あったとしても……それが崩れたからどうだってんだ。崩れたら、みんなでまた作ればいいだろ!
 公におんぶにだっこじゃなくて……全員の……みんなの神話をもう一度作るんだ!」
(純……)
沙希はベンチで純平の言葉を聞いていた。
「ったく……恥ずかしい事言わせるんじゃねぇ……」
「純平……」
「俺はこれでも信じてるんだぞ、お前らを。
 沙希や公はもっとだ。
 弱音を吐くなら……あのお守りを返してからにしろ」
「あ……」
イレブンは胸に手をやった。
「じゃ行くぞ、キックオフだ」
「おぉ!」
選手が一気に動きだした。
(純平……ありがとう……)
公は純平の後ろ姿に礼を言った。

「まだ終わっちゃいませんからね」
純平は新田に宣言した。
「あぁ」


(全員の神話か……)
(照れくさいけど……)
(なんだかいい響きだ……)
きらめきイレブンはじっと前を見据えていた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルヒーロー!
サブタイトル第8話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか
感想投稿数22
感想投稿最終日時2019年04月12日 15時30分45秒

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