「あ〜あ……、つまんないな……」
沙希は自分の部屋のベッドで手持ち無沙汰に転がっていた。
「折角のお誕生日なのに……」
今日は1月13日。沙希の18回目の誕生日である。
しかし……沙希は公からプレゼントをもらう事は出来なかった。
それは……
「会いたいな……公くん……に……」
沙希がつまんなさそうにしているのは……公のせいである。
公は昨年の甲子園大会できらめき高校の全国制覇の主力選手として大活躍をした。
昨年のドラフト会議で1位指名を受け、即戦力大型野手として阪神タイガースに入団した。
1月はプロ野球選手にとっては自主トレ期間である。タイガースは高校生である公には『学業優先。練習にはできる範囲の参加でよい』といってくれていたのだが……入学時は冴えなかった公も、今では一流大学も現役入学が狙える、きらめき高校の俊才である。
卒業に必要な単位もほぼクリアしている。
そういうこともあって、合宿所に入り、甲子園で行われている合同自主トレに参加するため、一週間前から大阪に行ってしまっている。
沙希にとっては「プロ選手」の公の存在は嬉しい。
しかし折角の誕生日に公に会えない事は辛いのである。そういうところはやはり18歳の乙女である。
「沙希〜電話よ〜」
階下から母親の声が聞こえてきた。
「はい! 今行く〜!」
返事をすると沙希は階段をかけ下りた。
「??? 沙希! お前……なんて格好してるの」
母親が眼を丸くしている。その横でトイレからでてきた父親も眼のやり場に困っている。
「あ、きゃっ!」
沙希は暖房の効いた部屋で暑いので下着姿になっているのをすっかり忘れていた。
慌てて部屋に戻る。
「ゴホンゴホン……」
父親が咳払いをしながら、夕刊を開き読み始めた。
「どうしたんですか。お父さん」
「いや、その……なんだな……沙希も……ゴホン……」
父親の顔は真っ赤になっていた。
沙希は部屋で服を着ると電話口にやってきた。
「もしもし、沙希です」
「あ、沙希ぃ〜、あ・た・し・だ・よ」
「え? ひなちゃん?」
電話は親友の朝日奈夕子からだった。
「どうしたの、ひなちゃん?」
「ちょっと、今からでてこれる?」
「今? だってもう10時過ぎてるよ」
「そこをなんとかならないかな。沙希にとっても悪い話じゃないんだけど」
「だって……ひなちゃんみたいに夜遊びできないわよ」
「あ、沙希ぃ、ひっどぉい!」
「あ、ごめん」
電話の向こうの夕子は素直に謝った。
「でさ、どうしても今からでてきてもらいたいんだけど」
「どうしても?」
「どうしてもなの」
「なにがあるの?」
「う〜ん……それは言えないんだよね。
でも決して沙希にとって悪い話じゃ無いっていうのは、た・し・か。
この朝日奈夕子様が保証するって」
「ん〜と……、ちょっとまってね」
そう言うと沙希は電話を保留し、居間の両親の所に行った。
「あのね、夕子ちゃんが今から出て来れないか、って言ってるんだけど……いいかな?」
沙希はその大きな眼をクリクリさせて父親に言った。
「その……なんだ、何があるんだ?」
「それは私もわからないんだけど……夕子ちゃんが『悪い話じゃない』って言うの」
すると横から母親が助け船を出した。
「いいじゃないですか、お父さん。
沙希ももう子供じゃないんだし、自分の行動には責任を持つでしょ」
「それは……確かに、もう子供じゃなかったが……」
「やだ、お父さん!」
父親の言葉に先ほどの出来事を思い出して沙希は赤くなった。
「子供じゃないから心配だという事も……」
「どうしてもダメ?」
沙希の大きな眼がよりいっそう大きくひらかれた。
この眼に弱いのは公だけではないようだ。
「ま、仕方がないな。
遅くならないようにしなさい。時間が時間だからな」
「ありがとう! お父さん!」
沙希は父親に抱きついた。
沙希の父親の顔は……首筋まで真っ赤になっていた。
「ひなちゃん……きらめき中央公園の噴水って言ってたけど……いないな……」
沙希は夕子に言われた通り、きらめき中央公園の噴水の所にやってきた。
しかし夕子はいない。
「おかしいな……」
沙希が周りを見回すが、周りにいるのはカップルばかりだった。
ベンチでカップルが肩を寄せ会っている。
「もう! ひなちゃんったら。人を呼び出しておいて」
沙希が諦めて帰ろうとしたときだった。
「沙希ちゃん」
沙希の後ろから声をかける人がいた。
「うそ?」
沙希がその声に驚いて振り返ると……
「沙希ちゃん。待った?」
そこに立っていたのは、公だった。大阪にいるはずの公がそこにいた。
「ど、どうしたの? こんなところで……」
「クビになってね」
「え!!」
「うっそ」
「もう……驚かせないでよ」
沙希は公に会えた嬉しさを必死で隠そうとしていた。
「本当に……どうしたの? 練習は?」
「ちょっと帰ってきたんだ。明日一番の新幹線で大阪に戻れば明日の練習も間に合うしね。
で、こっちへ来る新幹線の中から好雄に電話して、好雄から朝日奈さん経由で沙希ちゃんを呼び出したんだ」
「どうして……そんなに回りくどい事を……」
「沙希ちゃんの驚く顔がみたかった、じゃダメかな?」
「もう、……公くんったら……」
公は背負っていた鞄を開けて中から紙包を取りだした。
「はい、これ」
「え? なに?」
「だって、今日は沙希ちゃんの誕生日だろ?」
「あ、そ、そうね」
「だから、これはプレゼント」
「もしかして……これのために帰ってきたの?」
「はは、だって練習は明日も明後日も……ずっとあるけど、沙希ちゃんの誕生日は年に一回しかないからね」
「嬉しい……開けてもいい?」
「もちろん」
沙希が包を開けると中から出てきたのは可愛らしい腕時計だった。
「あ、腕時計」
「お誕生日、おめでとう。18歳だね」
公がにっこり沙希にほほえんだ。
「あ、もうこんな時間」
公が時計を見ると12時を過ぎている。もう14日だ。
「ごめんね、遅くなっちゃって。
13日の内に渡せなくって……それにお父さんに叱られちゃうね」
「ううん……いいの。それにね……」
沙希は時計の竜頭を廻し時間を11時にした。
「ほら、こうすれば……まだ13日よ」
「沙希ちゃん」
公が沙希の肩を引き寄せた。
周りのカップルと同じように沙希は公の胸に顔を埋めた。
深夜の公園は、二人の周りだけ時間が止まっていた。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
---|---|
タイトル | ときめきメモリアル短編集 |
サブタイトル | 一日遅れの… |
タグ | ときめきメモリアル, 藤崎詩織, 主人公, 他 |
感想投稿数 | 163 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月22日 17時31分44秒 |
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- [★★★★★☆] ストーリーの流れは中々良い。欲をいえば二人の公園でのやりとりをもっと詳しく書いて欲しかった。
- [★★★★☆☆] 虹野沙希の親父殿に乾杯^^