「いってきま〜す」
見晴は勢いよく家を飛び出した。
まだ7時になったばかり。
家から駅まで15分、電車に20分揺られて、さらにきらめき高校まで徒歩10分。
7時30分に家を出ても余裕なのに、入学以来、見晴はずっと7時に家を出ていた。
その理由は……
『きらめき〜きらめき〜』
電車はきらめき駅に到着した。しかし見晴は下りない。
いや、これはいつもの風景だ。
更に、見晴は電車に15分揺られた。
『ときめき〜ときめき〜』
電車はきらめき市郊外の駅・ときめき駅に到着した。
見晴は電車を飛び降りると、駅の地下連絡道を走り反対側のホームへ走った。
ホームに駆け上がると時計を見る。
「8時2分。予定通り!」
ホームには沢山の人がいた。丁度通学時間に重なるため、きらめき高校以外の生徒もこの時間に集中する。
見晴はいつものように人をかき分けホームを歩いていった。
(……いた!)
ホームには主人公が立っていた。
入学以来、彼に一目惚れしてしまった見晴は、彼に会うために毎朝正反対のこの駅までやってくるのだ。
彼の乗る車両はいつも決まっていた。
8時4分の快速、前から二両目の一番前のドアだ。
だから見晴は前から2番目のドアに乗る。そして、遠くから彼を見つめている。
これが彼女の日課だった。
だが、今日はいつもと違っていた。
『ホームに電車が到着いたします。御注意下さい』
アナウンスが流れて8時4分の快速電車がやってきた。
見晴はいつものように前から2番目のドアの所に並んだ。
電車が到着し、ドアが開く。数人の客が下りた。そして、並んでいた人が一斉に乗り始める。
見晴も人の流れに流されながら、車内へと入った。
公は、いつも乗るドアの人が今日は異常に多いのが気になった。
(あれ、乗れるかな?)
列の一番後ろに並んでいた彼は、心配になってきた。
『まもなくドアが閉まります。御注意下さい』
アナウンスが流れた。
(乗り遅れる!)
慌てた公は、人が乗り終わっている隣のドアに急いだ。そして飛び乗った。
それと同時にドアがしまった。
見晴は苦労して吊革に捕まった。そして、いつものように公がいるだろう、前のドアの周辺を見た。
(あれ? いない??)
人混みに流されたのかと思ってドアから内側の方も見たがやはり公はいなかった。
(おかしいな? 一番後ろに並んでいたんだから……そんなに中まで入っているはずがないんだけど……)
だが、やはり公はいなかった。
(どうしちゃったんだろ)
そう考えていたとき電車が揺れた。
掴んでいた吊革から手が離れ見晴は倒れそうになった。
「キャッ!!」
倒れそうになった見晴を後ろにいた誰かが受けとめてくれた。
「あ、ご、ごめんなさい」
そう言って、見晴がその人を見たときだった。
「え?」
見晴を支えていたのは公だった。
「大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫です」
慌てて、見晴は吊革を掴み直そうとしたが、見晴が掴んでいた吊革は、既にどこかのサラリーマンが掴んでいた。
「なんだったら、僕の腕、掴んでいていいよ」
公にそう声をかけられ見晴は緊張してしまった。
「え、あの……それじゃ」
そう言って見晴は公の腕を掴んだ。
電車が揺れる度、公の腕を引っ張る格好になった。
(嘘……これって……今日は最高!!)
「どうしたの? 顔が赤いよ。熱いの?」
「あ、ううん、大丈夫」
そう言ったが、見晴は自分の顔が赤い理由が十分わかっていた。
(毎朝、早起きしてきて良かった!!)
『きらめき〜きらめき〜』
15分ほど電車に揺られ、きらめき駅についた。
見晴は公と一緒に電車を下りた。
「あの、今日はありがとうございました」
見晴は公に頭を下げた。
「いいよ、ところで君って……廊下で僕にぶつかってくるだろ?」
「あれ、そ、そうかな……? 忘れちゃった」
そう言って見晴は改札口へ走っていった。
「あ、名前教えてよ」
公が後ろから見晴に声をかけたが、見晴の耳には届かなかった。
ホームの端で公だけが取り残された。
走りながら見晴は考えていた。
(きゃっ、今日は15分も体がくっついちゃった。それに……廊下でぶつかってくる子って覚えてくれていたのね)
そして、見晴はまた明日も早起きしようと心に決めていた。
(明日も、明後日も……見晴、ファイト! 一目惚れを信じます!!)
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | ときめきメモリアル短編集 |
サブタイトル | 8時4分、前から2両目、一番前のドア |
タグ | ときめきメモリアル, 藤崎詩織, 主人公, 他 |
感想投稿数 | 161 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月13日 13時53分13秒 |
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