「モグモグ……パクパク……」
「どう? おいしい?」
「う……!」
「え?? どうしたの? ま、まずかった???」
「うまい……」
「もう……驚かさないでよ」
「虹野さんってお料理の天才だね」

きらめき中央公園の芝生で公と沙希がお弁当を食べていた。公が食べている。
沙希のお弁当は見るからにうまそうだ。
「沙希ちゃんってどうしてそんなにお料理がうまいの?」
何気なしに公が聞いた。
「だって……小さい時からやってるから……」
「いくつくらい?」
「え〜と……4つかな……?」
「4つの時から! そりゃうまくなるわけだ」
「うん……」
「でも、どうしてそんなに小さい時から料理を……?」
「うん……」
沙希は14年前の出来事を思い出していた。

「さーきーちゃーん! あーそーぼー!」
可愛い男の子と女の子が沙希の家の前で沙希を誘っている。
二人とも近所に住む沙希の友達だ。もっとも二人とも沙希より二つ年上の6歳だ。
「あ、たけしくんと、ゆきちゃんだ。
 おかあさん、あそびにいってくるね」
そう言うと沙希は玄関から飛び出した。
「なにしてあそぶ?」
沙希が二人に聞く。
「おままごと!」
有希子が手を挙げる。
「おままごとするもの、このゆびとまれ!」
すぐに沙希がその指をつかむ。だが、武はとびつかない。
「たけしくん、やらないの?」
「だって〜またおままごとなんだもん。ぼくもういやだよ」
「だって〜さきちゃんもおままごとしたいよね」
有希子が沙希に聞く。
「うん」
沙希は大きくうなずく。
「しょうがねぇな。じゃ、やってやるよ」
武はそういって二人を連れて近所の公園に行った。
「じゃ、たけしくんはおとうさんね」
有希子が役割を決める。
「で、さきちゃんはあかちゃん」
「えー、またわたしがあかちゃん! おかあさんがやりたいよう!」
「だってさきちゃんちいさいんだもん」
「やだやだ、おかあさんがやりたい!」
沙希は駄々をこねる。見かねた武が有希子に言った。
「じゃ、きょうはさきちゃんにおかあさんをやらせてあげようよ」
武にそう言われると有希子も仕方なく了承した。
「きょうだけだからね」


「ただいま、いまかえったよ」
お父さん役の武がござの側で言う。
「おかえりなさい。ごはんにする? おふろにする? それともねる?」
「さきちゃん……それいつものとちがうよ?」
「だってきのうのドリフターズでやってたもん」
「ま、いいか……ごはんにしようか」
武がおもちゃの食器セットの前に座った。
「はい、どうぞ。めしあがれ」
沙希はお茶碗に砂を盛り、お皿には泥の団子を乗せて武の前に置いた。
「あかちゃんは?」
「おっぱいのんでねてる」
「そうか、じゃいただきます」
武は木の枝のお箸を持って食べる真似事をした。
「ごちそうさまでした」
「だめよ、ちゃんとたべなきゃ」
「たべたよ」
「たべてないもん、まだあるもん!」
「だってさきちゃん……ほんとにたべられないよ。まねっこだろ」
「たべてほしいんだもん! さき、ちゃんとつくったんだもん……」
沙希はまた駄々をこね始めた。有希子が必死でなだめるが沙希はきかない。
「しょうがねぇな! たべてやるよ!」
そう言うと武は泥の団子や砂のご飯を食べてしまった。

「それでどうなったの?」
公は、沙希に武のことを尋ねた。
「お腹をこわして救急車で運ばれちゃったの。当たり前よね」
「沙希ちゃんとおままごとするのも命がけだったんだ」
「そうなの。それでね、私がちゃんと料理ができたらこんなことにならなかったってずっと泣いてたの。
 それから料理の練習を始めたんだ」
「おままごとの度に救急車じゃ大変だもんね」
「そうね」
「沙希ちゃん……その武君好きだったんじゃないの?」
「え? あの……その……」
「もしかして……初恋?」
「あの……そ、……そうかもね……」
沙希は真っ赤になっている。
「で、その武君は、いまどうしてるの? 今も近所にいるの?」
「あ、それは……」
その時向こうからやってきたカップルを見て沙希の顔色が変わった。
カップルも沙希達を見つけたらしくこっちにやってきた。男が沙希に声をかける。
「やぁ、沙希ちゃん。久しぶり」
「あ、ひ、久しぶりね」
「そちら、彼氏?」
「え……ええ」
「失礼ですが……」
どなたでしょう、と公が声をかけようとしたとき女性の方が公に話しかけた。
「沙希ちゃんには気をつけなさいね。下手をすると泥のお団子食べさせられるわよ」
「有希子さん……私……もうそんなこと……!」
「冗談だよ、有希子はいつもこの調子だから」
男の方が怒った沙希をなだめる。
「もう、武さんったら……」
(あ、……この二人が……たけしくんとゆきこちゃんなんだ……)
公は事情を理解した。
(なるほど……そういうことか……)

「あの、……式はいつですか?」
沙希が二人にきいた。
「いや、式はしないよ。学生結婚だし……それに有希子がコレで……」
武は片手をお腹の前で丸く動かした。
「あ、おめでたなんだ。いつですか?」
「年末」
「そうなんだ……お幸せに……」
「沙希ちゃん達もね」
そう言うと武と有希子は並木道の方へ歩いていった。


「今の人たちが……そうなんだね」
公は沙希に聞いた。
「うん……」
沙希の表情が少しくもった。
「いまでも武君のこと……」
「ううん、武君は……お兄ちゃんだったかな……。私、兄妹いなかったから……
 武君も、有希子ちゃんもお兄さんとお姉さんみたいなものだったから……」
「ホント?」
「本当よ……だって……今は……」
「今は……?」
「もう……いじわる……」
そう言って沙希は公の腕をつねった。
「あいててて!」
「からかった罰よ。さぁ、お弁当食べちゃいましょう」
二人は再び芝生に腰を下ろした。そしてお弁当を食べ始めた。

そのお弁当には、14年の歳月の重みがあった。

Fin

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルときめきメモリアル短編集
サブタイトル初めてのお料理
タグときめきメモリアル, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数163
感想投稿最終日時2019年04月14日 16時45分07秒

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  • [★★★★★☆] お話としてはよかったけどもう少し初恋の相手と沙希ちゃんのストーリーが欲しかった。
  • [★★★★☆☆] なんだか淋しいような、でも心があったかくなる素敵な作品でした(*^_^*)