(遅いなぁ…………もう時間過ぎてるのに……)
中学の卒業式も終わって、最初の日曜、見晴は別々の高校に進む友人達と買い物にいく事になっていた。
で、この駅前で待ち合わせしていたのだが……、
「もう……いつまで待たせるのかしら、とっくに時間は過ぎているのに……」
実は、見晴の時計が狂っていて、待ち合わせの時間にまだ二十分もあるのだが……
そんなこととは気付かない。
そのとき……
「ねぇ、彼女。待ち合わせ?
 彼氏来ないじゃん。俺と遊ぼうよ!」
例によってナンパ野郎である。
「あの……いえ……その……」
「さっきからずっと見ていたけど、彼氏来ないよ、近くにいい店知ってるんだ。一緒に行こうよ」
「あの……だから……」
見晴が困っていたその時だった。
「孝一! な〜にやってるんだ! ナンパか?」
と大声で叫んで、その男の後頭部をパカーンッ、と叩いた人物がいた。
「?????」
頭を叩かれた男は訳がわからず、キョロキョロしているが、周りの通行人の視線が彼に集まっているのに気付いた。
そりゃ、そうだろう、大声で「ナンパ」と叫ばれてしまったのだから。
「お〜い、公! なにやってるんだよ!」
向こうの方から声がする。
「なんだ、孝一。そっちにいたのか。
 悪ぃな、人違いだ」
そう言って、その男は、向こうに走っていった。
「ははは、俺、人違いして、知らない人の頭叩いちまった」
「なにやってんだ、公らしいな」
向こうの方で声がする。
ナンパ野郎は、結局周りの視線に耐えきれず立ち去ってしまった。
(もしかして……ナンパされて困ってる私を……助けてくれたの?)
見晴は後ろ姿の公を見つめていた。


10ヶ月後……2月3日……

「ふ〜ん、で、その彼と高校の入学式で再会して、廊下でぶつかったり、間違い電話のフリして、留守電にメッセージ入れたりして、印象づけて……」
一枝が喫茶店で見晴に向かって言っている。
「反対方向の電車にわざわざ乗りに行って、遠くで見つめる現在に至ると……」
「うん!」
にっこり笑って見晴が頷いた。
「少女マンガじゃないのよ! 女の武器を使いなさい!
 笑顔と涙の読者サービスせんか〜!!!」
見晴に向かって詰めよる一枝を横から二葉と三奈子が必死でなだめている。
一枝は構わず続けた。
「女の仮面は一つじゃダメよ、時にはくさい演技の一つもして危険な恋の駆け引きも必要なのよ!!
 それが、恋愛の醍醐味ってもんでしょ! あぁ! もう、じれったい!!」
「か、一枝ちゃん落ちついて……」
二葉が一枝の肩を必死で掴んでいる。

「でも……勝てないかも知れない……」
見晴がポツリと言った。
「彼……素敵な幼なじみがいるの……」
「もしかして……藤崎詩織さん?」
「………………」
見晴は返事しないが、その表情は肯定しているも同じだ。
「そうか……幼なじみって……………………でしょ?」
「え? 何なに?」
一枝の意味深な言葉に二葉と三奈子が反応した。

「公くん、お父さんとお母さん、今日いないんでしょ、だったら、私が御飯作って上げる」
「あ、悪いなぁ、詩織」
「はい、召し上がれ」
「あぁ、美味しいなぁ。詩織の料理は最高だよ」
「どんどん食べてね」
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「まだ残ってる……」
「だってもう、お皿には何もないぜ」
「次は、私を……た・べ・て……キャッ……」
「し、し、詩織〜!!!」
「やんやん……公くんったら……あんあん……」

「な〜んて具合に……!」
一枝が勝手な想像を話していると……
「きゃぁ! 見晴が泡ふいてる!」
横では、あまりの過激な想像に見晴の意識がぶっとんでしまっていた。

「冗談がきついよ、一枝ちゃん! どうしろって言うの?」
見晴は混乱している。
「そうよ、一枝ちゃん。
 まるで見晴を挑発しているみたいじゃない」
三奈子が見晴を擁護する。
「あら、私だって安売りしろとは言っていないわ。基本的には私もプラトニック派よ。
 それにね、仮に最後までいったとして、それが本気かどうかなんて、わからないから、男は要注意よ」
「主人君は、そんな人じゃないわ!」
一枝の言葉に見晴が反論する。
「おだまり! 男の下半身には人格はないのよ!」
「主人君だったら、あるもん。やさしくて、シャイでウブなのよ」
どんな下半身じゃ(笑)
「猫かぶってるのよ、男なんて一皮むけば変わるもんよ」
一枝はそう言った後、さらにつけ加えた。
「でも、本当に皮かぶってたら、かえって安心かな。痛くてできないもんね」
「ひどいわ、主人君の○○(ピーッ)は正常だもん! 皮なんてかぶってないもん!」
横でみていた二葉と三奈子は周りを気にしながら二人の会話を聞いていた。
「なんだかんだ言って、見晴って、しっかり一枝ちゃんの話についてってるのよね」
「ホント……」

「だって……だって……」
混乱している見晴に一枝がとどめの一撃を加えた。
「だいたい、見晴。あんた彼とデートした事すらないんでしょ」
「だって……」
「おだまり! デートもできないくせに」
「できるもん!」
「じゃ、やってごらんなさい!」
「するもん!」
「じゃ、成立ね。今日から一カ月以内……そうね、来月の見晴の誕生日までに彼とデートすること」
「え???」
一枝の意気なりの切り出しに見晴は事態を理解できないでいた。
「できなかたら、見晴は私たち三人に“甘味処・ときめき”のアンミツ・ぜんざいセットの大盛りを驕ること」
「え???」
「証拠として、二人で撮ったプリクラのシールを持ってくること」
「え???」
「じゃ、賭けは成立ね。
 ここはあたしが驕って上げるね。じゃ、頑張ってねぇ〜」
そう言うと、一枝は二葉と三奈子を連れて伝票をもって喫茶店を出て行った。
「え????? ど、ど、……どうしよう……」
見晴だけが店に残された。


「一枝ちゃん、ちょとひどいんじゃない?」
二葉と三奈子が一枝を責めた。
「だって、あぁでもしないと、見晴は絶対彼とデートできないからね」
「まさか……」
「あぁ、恋のキューピットは辛いわ」
「一枝ちゃんって……ときどき、恐い……」


それが、丁度1ヶ月前の出来事だった。

見晴が、一枝達と約束させられてから、早くも1ヶ月が過ぎようとしている。
明日の日曜日は、約束の期日となる見晴の誕生日だ。
「あ〜ん、無理だよう!!」
見晴は自室のベッドで転がっていた。
「どうしようかな……」
見晴は財布の中身を数えた。
「だめだ〜三人に驕ったら……今月のお小遣いなくなっちゃう……」
もう諦めているんですか??

「見晴姉ぇ、電話!」
妹の千晴がコードレス電話の子機を持って見晴の部屋に入ってきた。
「もしもし」
受話器を受け取ると、見晴は電話に出た。
「あ、見晴? 主人君ね、明日、鏡さんとショッピング街でデートだって」
電話の向こうの声の主は一枝だった。
「え?」
「どうする?? 賭けは私たちの勝ちかな?」
「まだ、わかんないもん! 一発逆転よ!」
そう言うと、見晴は電話を切った。
「あぁん! どうしよう!!!」

「見晴ったら……しょうがないんだから……」
一枝は一方的に電話を切られたにかかわらず、対策を考え出した。
「やるしかないわね」
そう呟きながら、一枝は二葉と三奈子に電話をするのだった。


翌日、ショッピング街では公が魅羅を待っていた。
「遅いなぁ……鏡さん」
公が呟いている。
見晴は遠くからそれを眺めていた。
「公くん……待ち合わせか……今日が最後の日なのにね」
どうでもいいけど、見晴ちゃん、そのサングラスは怪しいぞ。
「え〜い、当たって砕けろ! 館林見晴、行きま〜す!」
見晴は公の元へ走って行った。
「ごめ〜ん、待ったぁ?」
「え?」
公が怪訝そうな顔をする。そりゃそうだろう。
「えっと……(あ〜ん、何言うか考えてなかったぁ〜)」
「君……もしかして朝の電車の……」
「ご、ごめんなさい。人違いでした」
見晴はそれだけ言うとその場から走り去って行った。
(あぁん、見晴の馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!)
そんなこと言っても悪いのは自分です。

その様子を影で見ていた人物がいた。一枝である。
「やっぱ、見晴には無理か……しゃぁないわね、やるか……」
一枝は携帯電話を取り出すと、二葉と三奈子のポケベルにメッセージを送った。
「これで、あとは見晴次第ね。これ以上面倒見切れないわ……。頑張りなさいよ」
一枝はそう呟きながら、ショッピング街を後にした。


「鏡さん……遅いなぁ……」
約束の時間を過ぎても現れない魅羅を公は辛抱強く待っていた。
見晴は十五メートルほど離れた店の陰からそれを見ていた。
「ごめんなさい、待ったかしら?」
その時、魅羅が現れた。
「いや、今来たところだから……」
そう公が言いかけたとき、
ピピピピピピピ……
電子音が響いた。魅羅が慌てて、バッグからポケベルを取り出す。
【アキラ、キュウビョウ、スグカエレ】
ポケットベルは魅羅の弟の急病を知らせていた。
「ごめんなさい、弟が急病なの。看病しなくちゃいけないから、今日は失礼するわ」
魅羅はすぐに公にデートのキャンセルを告げた。
「そりゃ、大変だ。僕のことはいいから、早く行ってあげて」
「じゃ、ごめんなさい」
魅羅は足早に去っていった。


その頃……
「ねぇ、おねえちゃん。魅羅ねえちゃんのポケベルの番号聞いてなにしたの?」
魅羅の自宅では、弟達が二葉と三奈子に聞いていた。
「いいの、なんでもないの。このことはおねえちゃんには内緒よ。いい?」
「うん、いいよ。お菓子くれたし」
「じゃ、僕たち元気でね!」
二葉と三奈子は魅羅の自宅を出ていった。


一方、こちらは一人になってしまった公である。
「さて、鏡さんもいなくなった事だし……どうするかな……」
公は一人で何をするか考えていた。
「ゲーセンにでも行くか」

「あれ? 主人さん、一人になっちゃった。鏡さんどうしたのかしら?」
陰でみていた見晴は不思議に思っていた。
「でも、これはチャンスね。行くぞ! 見晴!」
自分に声をかけ見晴は公の後を追った。

ゲームセンターで公は対戦格闘ゲームの台の前に座ると、百円玉をいれゲームを始めた。
(あ、主人さん…………ようし! これよ!)
公を素早く見つけた見晴は、公の向かい側の台に座ると百円玉をいれ、公のゲームに乱入した。

「おっ! 乱入か、ようし俺の腕前をなめるなよ」
呟きながら公は挑戦を受けた。
「えい、えいっ……そりゃ、なにくそ…………え?? あ!!」
あっけなく公のキャラはやられてしまった。公の負けである。
(くそっ、それなら今度は……)
公は財布から百円玉を出すと、素早く投入し、たった今、自分を倒した相手に挑んでいった。

「えいっ、それ!」
見晴は公の挑戦を受けていた。
(私、今、主人さんとゲームしてるのよね、これってデートよね)
あの……見晴ちゃん……それは違うと思います。

見晴はまたも勝った。
負けず嫌いの公は再度チャレンジした。
しかしまたもや見晴の勝ちだった。
公も見晴もどんどん熱くなっていった。
(うふふ、私に勝とうなんて十年早いのよ。
晴海姉ぇや美鈴や千晴と家事の分担を賭けて毎日真剣勝負をしているのよ!)
それで、見晴ちゃん……いつも負けて、一人で家事をやらされているんでしょ……。

(くそ……なんで……勝てないんだ?? こいつ……強ぇぇぇ!)
合計五百円投入したところで公は挑戦を諦めてしまい、台を離れた。
丁度後ろでみていたギャラリーがすかさず台に座り見晴に挑戦を始めた。
見晴は全く気付かず、挑戦を受けた。

「えい! えい!」
見晴の周りにはギャラリーがとりまいていた。
向かい側では見晴に勝とうと交代で挑戦者が座っていたが……勝てない。
公が席を立って三十分も経った頃、
(主人さん……どんな顔をしてゲームしているのかな?)
首を横に倒して向かい側をのぞき込んだ。
「え?????????」
そこには見ず知らずの男が座っている。
「なんで???」
見晴は思わず大声を出して席を立った。
「あの、最初にここに座っていた男の人は?」
見晴は向かい側のギャラリー達に尋ねた。
「え? あ、あいつかな?」
「そいつよ!」
見晴ちゃん……どうしてそれでわかるの……。
「三十分くらい前に出ていったよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
ギャラリー達が見晴の大声にびっくりしている。
「どうして教えてくれないのよ!!!」
「そんなこと言っても……もしかして……彼氏?」
「え?? いや……そういうわけじゃ……えーーーい、もう!」
見晴はゲーム台の下に置いてあったバッグを掴むと、素早くゲームセンターを後にした。
「あ、ねぇ君! クレジット残ってるよ」
「あなたにあげる! それじゃぁ!」


見晴はゲームセンターを飛び出し、ショッピング街中を公を探して走り回った。
しかし、公はどこにもいない。
既に公を見失ってから2時間が経過していた。
「あぁぁぁぁん……見失っちゃった……」
そりゃ、三十分も一人でゲームに熱中してたんですから……。
「あ〜あ、一枝ちゃんたちになんて言おう……」
見晴はしょんぼりと落ち込んでトボトボと歩きだした。
運の悪いときには、つくづく何をやってもダメなものである。
落ち込む見晴に追い打ちをかけるように雨が降り出した。


「あ〜、もう! お気に入りの服なのに……」
見晴はバッグを頭の上で傘代わりにしながら近くの本屋の軒先に飛び込んだ。
ドシンッ
「あいてっ!」
「キャッ!」
下を向いて走っていた見晴は軒先で誰かにぶつかってしまった。
「あ、す、すいません。大丈夫ですか?」
見晴が顔を上げたときだった。
「あ!」
そこに立っていたのは公だった。
「ご、ごめんなさい。……ぶつかっちゃったね」
「君……朝の電車の……」
「え? な、なんのことかな……わ、忘れちゃった……」
見晴はいつもの癖でそう言ってしまってから、後悔した。
(ば、馬鹿! 見晴の馬鹿! チャンスかも知れないのに……)
「そうなの? 人違いか……」
「そ、そうかもね」
(馬鹿! 何言ってるのよ!)
「傘持ってないの?」
公が見晴に聞いた。
「あ……う、うん」
見晴は頷いた。
「僕持ってるんだけど……駅まででよかったら入っていく?」
「いや……そんな………………え?」
公の意外な申し出に見晴は驚いた。
「ごめん、僕みたいなのと一緒の傘に入るのって嫌だよね。ごめんね」
「は……入ります!!」
見晴は思わず大声を出してしまった。
「そんな大声で言わなくても……」
公は耳元で大きな声を出されてびっくりしてしまった。
「それじゃ、行こうか」
公はそう言って傘を開いた。
「すいません」
そう言って見晴は公の傘に入った。

傘の中で真っ赤になった見晴を見て、公が聞いた。
「どうしたの? 顔赤いよ」
「え? そ、そうかな……」
見晴は緊張しまくっていた。
(相合い傘だ……主人さんと……相合い傘だ……)
しかしながら、楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎるものである。
駅前商店街から駅までなんて、歩けば五分だ。
あっという間に駅についてしまった。
「それじゃ」
公が傘をたたんだ。
「あ、ありがとうございます」
見晴は公に頭を下げた。
「あ、名前教えてくれないかな?」
「え……あの……………………そ、それじゃぁ!」
見晴は名前を言わずに走っていった。

(名前いっちゃったら……何もかもが消えてなくなってしまいそう……今までの事が夢になりそう……)
そう思い、見晴は名前を告げる事ができなかった。
それでも、見晴は上機嫌だった。
「主人さんと相合い傘だ! 相合い傘だ!」
そう叫びながらホームへの階段を走る見晴を周りの人が冷たい視線で見ていた。

本屋から駅まで。
たった5分だったが……見晴にとってはそれが公との初めてのデートの気分であった。


その夜……
「どうして、知らない人にポケベルの番号を教えたの!」
魅羅は弟達のおしりを一人ずつ叩きながら説教していた。
「あ〜ん、お姉ちゃん、ごめんなさぁい……」
今日の魅羅はいつもより厳しい顔つきで弟たちを叱っていた。


次の日……
「約束は約束だからね。プリクラの写真がない以上……驕ってもらうわよ」
一枝達に引きずられ、見晴は“甘味処・ときめき”に連れて行かれた。
「あ〜ん、やっぱり、名前教えてプリクラ撮ればよかったぁ〜!!!」

Fin

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルときめきメモリアル短編集
サブタイトル見晴、デートします!
タグときめきメモリアル, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数165
感想投稿最終日時2019年04月20日 12時43分58秒

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