「詩織……お風呂が沸いたから入るんなら先に入っちゃいなさい」


詩織の母親に言われて、詩織の姿になっていた公は部屋で慌てていた。

(風呂に入っていいんだろうか?)
(いいんじゃねぇか?)
(いや、でも……全部見えちゃうぞ……)
(仕方ないだろ、お前の体なんだ、今は)
(そりゃ、そうだけど……)

公は詩織の姿で部屋の中をゴロゴロ転げ回っていた。


結局、数十分悩んだ後、自分の部屋にいる詩織に電話することにした。

「もしもし、主人です」
「あ、母さん……じゃない……おばさま? 詩織ですけど……公君お願いします」
「あ、詩織ちゃん……公ね……ちょっと待ってね……」
保留音が流れ、公の部屋の子機に繋がったようだ。
「もしもし」
「あ、詩織? オレ、公」
「あ、公君? 丁度、電話しようと思っていたの」
「何のようだい?」
「お風呂とかのことなんだけど……」
「あ、オレもそのこと聞こうと思って……」
「ちゃんと毎日お風呂入ってね、公君……」
「あ、入ってもいいの?」
「仕方ないわよ……
 毎日ちゃんと体を洗ってくれないと……元に戻ったときに体が汚れていたら嫌だもん。
 それと下着もちゃんと変えてね。タンスの一番下の引き出しに下着が入ってるから……」
「今、詩織のおふくろさんに、風呂に入れと言われて困ってたとこなんだ」
「仕方ないわよ……
 でも、あんまりじろじろ見ないでね。恥ずかしいから……」
「そんなこと言っても……今はオレの体なのに……」
「わかってる。私も公君の体でお風呂に入るんだもん」
「わかった……それじゃ。なんかあったら電話するから……」
「うん、私も電話するから……じゃぁね」
電話を切ると、公はタンスの前に行った。
「一番下の引き出し……って言ってたよな」
そう言いながら、タンスを開けた。
「うわ……」
そこには綺麗に整理された詩織の下着が入っていた。
(うひゃぁ……カラフルだな……詩織の奴こんなのも持っていたのか……)
ピンク、ベージュ、クリーム色、淡い水色……さすがに原色系の派手なのはなかった。
だがやはり一番多いのは詩織らしい白だった。
「どれを着ればいいのかな?」
数分考えた後、公は一番おとなしい白のショーツとお揃いのブラをそれぞれ取り出した。
「制服はここで脱いでいった方がいいのかな?」
そう考えながら、公はセーラー服のリボンを取ってセーラー服を脱ぎ始めた。
セーラー服を脱ぎ終え、スカートを脱いだ。そこには下着姿の詩織が現れた。
部屋の姿見に映っている自分の姿を見ないように公はスェットの上下に着替え風呂場に向かった。


風呂場のドアを開けて入ろうとしたとき、母親が呼んだ。
「詩織、また公君から電話よ」
「はい、今行く」
そう言うと公は部屋に戻って電話を取った。
「公君! セーラー服はちゃんとハンガーに掛けて置いて!」
いきなり詩織の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ご、ゴメン……でも、どうしてわかったんだ?」
「公君……カーテン開けっ放しで着替えたでしょ。
 気をつけてちょうだい! 恥ずかしいんだから……」
「わ、わかった……」
公は電話を切るとセーラー服をハンガーに掛けた。カーテンを閉め、今度こそ風呂場に向かった。

脱衣所でスェットの上下を脱ぎ、キャミソールを脱ぐ。
ストッキングも脱ぐと、脱衣所の鏡にはブラジャーとパンティだけになった詩織が映っていた。
「くっ……それ……」
背中のホックを外すのに公は一苦労した。
「詩織もフロントホックにしておいてくれりゃいいのに……」
やっとのことでブラジャーを外すと、形のいい乳房が露になった。
「意識しない……意識しない……これはオレの体なんだ……自分の体で欲情してどうする……」
自分に言い聞かせながらパンティも脱いだ。タオルを持って風呂場に入っていった。


「公君……大丈夫かな……」
公になった詩織は公人の部屋のベッドに横になっていた。
「なんだか……頭の所が……ガサガサするわね……」
そう言いながら詩織は枕をどけた。そこにあったのは……
「やだ、公君……こんな物隠していたのね」
賢明な読者の皆さんには既におわかりだと思う……そういう雑誌である。
「公君……こんなの見てるんだ……すごいなぁ……わ、こんなことしてる……」
その雑誌には男と女が裸で抱き合っている写真が掲載されていた。
もちろん詩織も子どもではないのでその写真がどういう物か知っていた。
「公!! 早く風呂に入りなさい!!」
公の母親が一階から叫んでいる。
「はい、すぐ入るから!」
詩織は慌ててタンスから公の下着を出すと、風呂場へと向かった。
(どうせさっきトイレで見ちゃったんだもんね。
……公君……ちゃんと体洗っているかな……もう全部見られちゃったわよね……。でも、公君のお嫁さんになったら……毎日見られるんだもんね、……二人っきりで……やだ……私ったら……)
それを見ていた公の母親は、
「何か変ね? 青くなったり、赤くなったり。
 それに、ずいぶん今日は素直ね……いつもはなかなか入らないのに……」
などと考えていた。


一方の公は……風呂場で鼻血を出しそうになりながら、体を洗い、髪も洗った。
できるだけ意識しないようにつとめていたが、見える物は見えた。
(女の子の体か……)
自分と全然違う体……。改めていろんなことを考えてしまう。
(詩織も今頃同じこと考えているのかな?)
湯船の中で考え事をしていた公はのぼせそうになってきた。
(いかん……詩織はのぼせやすい質なのか……)
そう考え、公は風呂から上がった。
体を拭くと、新しい下着を身につけて。スェットを着ると部屋に戻っていった。


「ふう……」
髪を乾かしながら公は詩織の部屋を改めて見回した。
「マンガは……ないよな……音楽でも聞くか……」
CDラックを捜してみたがあるのはクラシックばかり。
「詩織らしいと言えば……詩織らしいんだけど……」
する事がないので、困った公が詩織の机に目をやるとそこには写真立てがあった。
そこには……公の写真が飾ってあった。
「詩織が……オレの写真を?」


一方の詩織は、風呂に入った後、部屋で公の部屋を見て回っていた。
「公君の部屋……マンガばっかり……」
本棚を見ていた詩織は1冊のノートを見つけた。
「あれ? これ……なんだろう……」
詩織はノートを開いてびっくりした。それは公の日記だった。
「見ちゃダメよね……公君の日記だもん……」
そう言って慌てて閉じた。しかし詩織の目にある文が飛び込んだ。
『詩織はオレのことをどう思っているのだろう……??』
「公君……」


その夜、詩織の姿の公と、公の姿の詩織はそれぞれの幼なじみの部屋のベッドで眠った。
お互いに相手のことを考えながら……。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル転校生
サブタイトル第3話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/転校生, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数109
感想投稿最終日時2019年04月09日 04時34分00秒

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