放課後、二人は揃って科学部の部室へと入っていった。


「あのう……紐緒さんはいますか?」
公が室内にいた科学部員に声をかけた。
「紐緒さんですか? え〜と……おい、閣下は?」
その部員は側にいる部員に声をかけた。
「閣下はさっき実験室に入っていきましたよ」
(紐緒さん……閣下って呼ばれているのか?)
その声を聞いたのか奥から紐緒結奈が出てきた。
「騒々しいわね。何の用なの?」
二人の姿を見た結奈が何事かと尋ねてた。
「ちょっと……ここでは……他の人に邪魔されないところで……」
詩織の姿の公に言われて結奈は実験室のドアを開けた。
「入りなさい」
そう言われて公と詩織は実験室に入っていった。


「……というわけなんだ」
公と詩織の説明が終わった。
「………………」
結奈は返事をしない。
「……紐緒さん……どうしたら元に戻れるか……わかるかしら?」
公の姿の詩織は一刻も早く元に戻りたいので結奈の前で頼み込んだ。
しばらく考えていた結奈は横にあったベッドを指さした。
「二人ともそこに横になりなさい」
「え?」
思わず同時に二人は聞き返した。
「もう一度しか言わないわよ。横になりなさい」
「は、はいっ」
詩織と公は大急ぎで実験室の隅にある大きなベッドに上を向いて横になった。
結奈は棚からなにやら機材を出すと二人の頭や手足、体に装着し始めた。
「あのう……紐緒さん?」
公は不安になって結奈に尋ねた。
「無駄口が多いわね。
 いま、二人の体を調べるために検査用の機械を取り付けているのよ。黙っていなさい」
仕方なく二人は口を噤んだ。


しばらくして電極等をつけ終えた結奈は横の機械の前のイスに座った。
「あのう……紐緒さん……」
今度は詩織が尋ねる。
「さっきから無駄口が多いわよ」
「危険なこと……はしないでね」
おそるおそる詩織が依頼する。
「大丈夫よ、脳波の検査、それとCTスキャンよ」
結奈の答で、気になった公が再度質問する。
「なんで、そんな機械がここにあるんだ?」
「あったらいけないのかしら」
「いや、いけなくはないんだけど……そういうのって高いんでしょ?
 部費で……は買えないよね? そんなお金……どうやって……」
「さっきからうるさいわね。そんな物、銀行のオンラインを操作すればいくらでも手に入るでしょ」
そう言うと結奈は機械にスイッチを入れた。
公と詩織は体に少し電気を感じたが、特に痛い、と言うこともないので黙ってされるままになっていた。
結奈は、コンソール横のプリンターからデータが次々に出力されているのをじっと見ていた。


「なかなか面白いデータが出たわ。
 新しいテーマが設定できそうね……協力してもらえるかしら?」
結奈はゆっくりと話し始めた。
「元に戻れるんだったら……なんでも……」
「脳波、脳内組織、その他、全く異常なし。健康体そのものね」
結奈はデータを見ながら二人に説明する。そして……
「精神錯乱を起こした男女の思考パターン及び行動について……いいテーマだわ」
「紐緒さん……」
「体が入れ替わってしまった……そんな馬鹿な話を信じる人間がいるとでも思ってるの? 馬鹿も休み休みに言いなさい。
 私は忙しいのよ! そんなよた話につき合ってる暇はないわ」
「嘘じゃないって!」
「嘘じゃないの!」
二人は同時に声を上げた。
「どう考えても科学的にそのようなことが起こるわけ無いでしょ!」
結奈も負けてはいない。
「だから世の中には科学でも説明できないことが……」
公は執拗に粘った。
「あるわけ無いわ!
 世の中のすべての現象は私の科学力で説明可能!
 今回の件を分析すると答は二通り。一つは二人が私をからかって遊んでいる。もう一つは……」
「もう一つは?」
詩織が聞く。
「二人が精神錯乱を起こしている。そうね、人体解剖という手もあるわね」
結奈の異常な目つきに二人は慌てて部屋を飛び出した。
「紐緒さんも無理か……」
二人はがっくりと肩を落として家路についた。

様々な混乱が二人の周りに起こっていた。
部活では女子バスケット部のエースの詩織がゴール下からの簡単なシュートを入れられなくなった。
野球部の主人がぽろぽろとエラーを繰り返し、バッティング練習ではかすりもしなくなった。


そんなある日、公の姿の詩織は好雄に声をかけられた。

「おい、公」
「あ、……えっと……なんだい、好雄」
一生懸命公の口調の真似をして詩織は返事をした。
「ちょっと前に言っていたあの件だけどな……」
「あの件……って?」
「おいおい、何言ってるんだよ。言い出しっぺはお前じゃないかか」
「いや……その……」
「だから、芹澤んちで朝まで男同士、酒飲んで語り合おうって計画だよ」
「あ……その件か……」
詩織はとりあえず思い出した振りをすることにした。
「今週の土曜日でいいだろ」
「え? いや……その……」
詩織は考え込んだ。
(どうしよう?)
「言い出したのは、お前だろ。お前が参加しないってことはないだろ」
「あ……そ、そうだな」
「じゃ、決まりだな。あと戎谷にも声をかけておいたから。四人で朝まで飲み明かそうぜ」
仕方なくうなずく詩織だった。


一方、詩織の姿の公も鞠川奈津江に声をかけられていた。

「詩織、今月のパジャマパーティ、幹事はあんたでしょ。どうすんの?」
「え? ……え〜と……」
話が見えない公は詩織の口調をまねて返事をした。
「だから、今月のパジャマパーティ、いつやるの?
 詩織の家が今月の会場でしょ。毎月、交代でやろうって決めたの詩織でしょ」
「あ、そ、そうだったわね」
「詩織、大丈夫? 調子悪そうだけど……」
「大丈夫よ。それじゃ……今週の土曜日でいいかしら?」
「OK、土曜日ね。じゃ、恵と……あと如月さんが参加したいって言ってたから、声かけておくわよ」
「あ、うん、おねがいね」
公は奈津江に返事をすると家路についた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル転校生
サブタイトル第6話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/転校生, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数99
感想投稿最終日時2019年04月10日 00時01分51秒

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