土曜日の夜になった。
公になっている詩織は、好雄と一緒に芹澤勝馬の家に行った。


ちょうど戎谷も来ていて早速、宴会が始まった。
「おっと、公も飲めよ」
「あ、ああ」
好雄に勧められて公になっている詩織もコップの酒を空けた。
「いい飲みっぷりだねぇ……公」
「あ……ま、まぁな」
「さ、もう一杯」
芹澤が空になった詩織のコップに酒をつぎ足した。
「あ、も、もう……」
「何言ってるんだよ。オレの酒が飲めないって言うのか?」
「そう言う訳じゃないけど……」
「じゃ、飲もうぜ、今日は朝まで!」
好雄が紙コップを高々と突き上げた。
「おーーーー!!!!」
芹澤と戎谷も一緒に突き上げる。
「お、おー……」
仕方なくつきあう詩織だった。

(良い子の皆さんへ:お酒は20歳を過ぎてからです。決して真似しないように。 From 作者)


「しかし、主人、お前こんなに酒強かったっけ?」
いくら飲んでも顔色一つ変えない公の姿を見て、戎谷が尋ねた。
「あ、うん、親父につきあっていつも飲んでるから……」
「あれ? 公の親父さんって……全くの下戸じゃなかったっけ???」
好雄が鋭くつっこみを入れた。
「あ……いや……そ、そう! 詩織の親父さんだよ」
「あ、なるほど……そうだよな、詩織ちゃんの親父さんにとっては、公は自分の息子みたいなもんだからな」
「そ、そうかもな」
「へぇ……主人は藤崎の親父さんを『親父』って呼んでるのか。
 ……ちょっと気が早いんじゃないか?」
いつになく芹澤も鋭い。
「え? いや……それは………………
 そ、そう。オレと詩織って姉弟みたいなもんだったからな、いつも一緒だったし……」
「何言ってるんだよ、公。
 詩織ちゃんと結婚しちゃえば、詩織の親父さんもお前の親父だよ」
「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ!」
慌てて詩織は好雄に抗議するが……その顔が真っ赤になっているのは、酒のせいばかりではないようだ。
「そうだ、詩織ちゃんと言えば……」
芹澤が公人に向かって言った。
「奈津江に聞いたんだけど……藤崎って最近様子がおかしいんだけど……何かあったのか?」
「え? いや……な……なんでもないよ」
詩織は慌ててしどろもどろになる。
「変と言えば……最近公の様子もおかしいよな」
好雄が追い打ちをかける。
「なにしろ……勉強はできる……スポーツもできる……どうしちゃったんだ?」
「あ……いや…………それは……うん、努力の成果だよ」
慌ててごまかす。
「そうか……そうだよな。
 公がんばっていたものな。詩織ちゃんにふさわしい男になるんだって……いつも言ってたもんな」
「え? 公君がそんなこと?」
「???」
3人が公の方を一斉に見る。
「あ……いやなんでもない」
「やっぱおかしいぜ、主人。
 そりゃ詩織ちゃんがオーストラリアに行っちゃうってのは寂しいかも知れないが(第1話参照)、どうがんばってもお前が留学生に選ばれる訳ないだろ」
「それは……そうだけど……」
そう言う詩織は3人の言葉が耳に入らなくなっていた。
「おっと……その話だ……」
好雄が思いだした様に話し始めた。
「学校側も最終決定を出していないんだそうだが……どうやら再検討しているらしいぜ……藤崎の最近の成績の落ち込みは尋常じゃないからな」
考え事をしていた詩織は好雄の言葉を聞いていなかった。
「主人、良かったな。藤崎はどこへも行かないぞ。
 さっさと愛の告白しちゃえよ」
戎谷の言葉も耳に入らなかった。詩織は考えていた。
(公君も……私のことを……本当に? ……それじゃ…………)

一方、こちらは詩織の部屋。
パジャマパーティの真っ最中である。


パジャマパーティと言っても、要は一人の家にみんなで泊まりに行ってお菓子を食べながら、夜遅くまで語り明かす、ただそれだけのことだ。
そして部屋にいるのは鞠川奈津江と十一夜恵、そして如月未緒だ。
「あ、詩織。そのパジャマ、おNEW?」
最後に風呂から出てきた公の姿を見た、奈津江は公が着ているピンクのパジャマを見て言った。
「あ、う、うん。そうよ」
とりあえず公はごまかす。
「でも……奈津江ちゃん……その格好……」
「あれ? 私はいつもこれでしょ。何言ってるのよ、詩織」
奈津江は白のタンクトップに黄色のショートパンツ。9月とはいえ、まだ暑い夜を考えれば納得のいく格好だ。
ちなみに恵はピンクのネグリジェ。少し下着が透けている。恵のイメージとは合わないので、公は最初「何かの間違いか?」と思ったほどだ。
未緒はオーソドックスに薄い紺のパジャマ。襟元にレースの刺繍が入っている。
パジャマ姿の3人に囲まれて、またもや公は幸せ気分一杯だった。
思わずボーっとしていると、勘違いしたのか奈津江が詩織に話しかけた。
「詩織……あんた調子悪いんじゃないの?」
「あ……うん……奈津江ちゃん……大丈夫よ……」
「そりゃ交換留学生に選ばれたい……というのと……大好きな公君と離ればなれになる……っていうので板挟みってのはわかるけどね」
「え??」
詩織になってる公は奈津江の言葉を聞いて驚いた。
(詩織がオレのことを……好き???)
「だいたい……最近の成績は何なの……?
 学校側が交換留学生の決定を保留にして再検討に入ったって言うのもわかるわ」
「え……それホント?」
「ホントもホント。勝馬が早乙女君に聞いてきた話だけどね。
 下手すると詩織……あんた選ばれないわよ」
「どうしよう……」
公は別の意味で焦っていた。
(詩織はオーストラリアに行きたがっていたからな……
もし選ばれなかったら……落ち込むだろうな。
元に戻れたら……絶対行きたいよな、詩織のことだから……)
「大丈夫です」
恵が安心させるように言う。
「詩織ちゃんの運勢は上昇してます。必ず本人の望む方に結果が出ます」
「そうですね。藤崎さんは最近調子が悪いだけですからね。
 体調が戻れば絶対に藤崎さん以外に適任者はいませんからね」
未緒も詩織を元気づけた。
「あ、でも私が選ばれなかったら如月さんが……」
補欠候補に未緒の名前があったことを思い出して公は未緒に言った。
「私は辞退届を出しているんです。
 オーストラリア留学は……体の弱い私では絶対に無理ですから」
公は考えた。
(詩織が交換留学生に選ばれるようにするには……どうすればいいんだ?
オレががんばって以前の詩織くらいの成績を収めればいいのか? そんなことできるのか?
でも選ばれなかったら……詩織はずっと日本にいるんだぞ。その方がオレにとっては……
いや……でも詩織は行きたがっているんだし……
ちょっと待て……それ以前に元に戻れなきゃ……)
しばらく考えて、公は決意した。
「如月さん……お願いがあるんだけど」
未緒は驚いた。突然詩織が自分の前に正座をしているのだ。
「私に勉強を教えてください。
 実は……勉強したこと、みんな忘れちゃったんです」


「えええええええーーーーーーーー!!!!!!!!」
その場に居合わせた3人が驚いて目を丸くしていた。

未緒に国語と社会を教わり始めた公は、更に紐緒結奈に理科と数学、片桐彩子に芸術と英語の自主トレの手伝いを依頼した。
入れ替わってる、等とは理解してもらえないので理由は未緒に言ったのと同じだ。

「一時的、部分的な記憶喪失で、過去に学習したことのほとんどを忘れてしまっている」
ということにした。

もちろんこのことは公になっている詩織にはナイショだ。
公は詩織に気づかれないように最大限に注意を払った。詩織に余計な気を使わせてはいけない。
「くれぐれも、このことは公くんには内緒にしてね」
未緒・結奈・彩子……さらにはつき合ってくれる奈津江や恵、愛らにも念を押した。
努力の成果があって徐々に成績は上がっていった。
しかし、以前の詩織には遠く及ばない。やっと学内での成績が二桁に入ろうかというレベルでしかない。


そして、二人が入れ替わってから3ヶ月の月日が流れた。
蒸し暑かった9月は過ぎ去り、秋も過ぎ……12月を迎えた。
そして学園側でも交換留学生を決める最後の選考を2学期の学期末テストの結果で決めることになった。
詩織になっている公は伊集院理事長に呼び出された。

「藤崎さん」
理事長は話し始めた。
「最近のあなたの成績は昨年までのあなたに比べると著しく悪い。
 このままでは交換留学生として認めるわけには行かない」
それはそうだろう。だから公も努力してきたのだ。


「だから最後のチャンスをあげよう。
 次の学期末テストで10番以内に入りなさい。そうすれば問題はない。
 ただし、それがダメだった場合は……補欠者の繰り上げにする。……これは学園理事会の決定事項だ」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル転校生
サブタイトル第7話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/転校生, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数99
感想投稿最終日時2019年04月10日 17時07分01秒

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