第2章

あの甲子園大会から1年3カ月の月日が流れた。

「第1回選択希望選手 阪神 主人公 18歳 内野手 きらめき高校」
パンチョ伊東の声が会場に響きわたった。
ここは199X年プロ野球新人選手選択会議、世間一般では「ドラフト会議」と呼ばれている会議の会場だ。
今年の目玉はなんと言ってもきらめき高校の主人公だった。一体何球団が指名してくるのかが話題の中心となっていた。
「第1回選択希望選手 福岡ダイエー 主人公 18歳 内野手 きらめき高校」

公は学校の会議室で報道陣を前にしてTV中継を見ながら2週間前のことを考えていた。

「コウ君、どうしたの? 元気ないけど…」
学校の帰り道、近所の公園で沙希は公に声をかけてきた。
「あ、あぁ…」
「もうすぐね。ドラフト会議」
「あぁ…」
公の元気がないのは国体終了後のスカウト合戦のせいだった。
2年の夏に4番で初出場した甲子園大会で5本塁打し、母校を優勝に導いた公のバットはその後も火を吹き続けた。
3年の春・夏も連覇し高校野球史上初の3季連続優勝を成し遂げた。あの中京、法政二、箕島、池田、PLらの強豪でもできなかった大偉業だ。
その間の公は甲子園で通算16本塁打した。
スカウト達の「卒業後すぐにプロの4番を打てる50年に一人の逸材」の評価と共に廻りも騒がしくなっていった。
喧騒に身を起きたくない公は退部届けを提出せず、結果としてプロのスカウトが接触できない状況が続いていた。
しかし国体終了後、周りの圧力で遂に退部届けを提出することになった。
そして公は4日間で12球団全ての訪問を受けた。
公は沙希と離ればなれになりたくない、その一心で3日前に報道陣を前に「在京球団以外なら大学進学」の逆指名を行った。
しかし、その後も阪神・近鉄・ダイエー・中日・オリックス・広島の西日本球団も已然として猛アタックをかけてきていた。
「でも、コウ君…意外だったな。
 在京球団以外はダメって…私びっくりしちゃった」
「だって…」
「だって…なぁに?」
「いや、なんでもない」
「どうしたんだ。コウらしくないぞ」
突然の声に二人は振り返った。
そこに立っていたのは一年前に卒業した赤井と真弓だった。
「あ、こんにちは」
沙希が声をかける。
「お、沙希ちゃん。また可愛くなったな」
「何言ってるの!」
真弓が赤井の腕をつねる。
「あいててて」
「赤井先輩。お元気そうですね。今シーズンはなかなかの活躍だったじゃないですか」
赤井は甲子園大会は怪我で出場しなかったが、その地区大会での打撃がスカウトの目にとまり、卒業後ドラフト3位で阪神タイガースに入団していた。
3塁の穴がある阪神で5月には定位置を勝ち取り、今シーズンは2割7分、18本塁打で新人王を獲得している。
真弓は赤井を追いかけるように関西の大学に進学し、甲子園のゲームは全て応援に行ってるという噂だ。
「公がうちに来たら…オレはファーストにでも行くかな?」
「ファーストミット買った方がいいんじゃないですか」
「ああ、そうだな…って公、もうお前おれからポジション取った気でいるのか?」
「あ、そんなこと…ないですから…」
「ははは、いいよ。公がうちに来たらオレのポジションはないな。
 給料下がるぞ〜。…どうする、真弓?」
「なんで私に聞くのよ?」
四人は一斉に笑った。
公は思った。心の底から笑ったなんて…いつ以来だろう。
「沙希ちゃん、ちょっと公と話があるんだけど…いいかな?」
赤井が沙希に尋ねる。
「あ、いいですけど…」
「じゃ、真弓ゴメン。あとで家に行くから」
「わかったわ。じゃ、沙希ちゃん行きましょう」
後には公と赤井が残った。


「逆指名のことなんだけど…」
赤井は話を始めた。
「沙希ちゃんのことだろう」
「…ええ…、…そうです」
「沙希ちゃんの夢は…このきらめき高校の近くで高校生達が集まれる小さな喫茶店を開くこと…だったな」
「だから…オレは関東の球団でないと…赤井さんは阪神でも、真弓さんは追っかけていける状況でしたから…でも…オレは…」
「プロ野球選手の選手寿命ってどれくらいか知ってるだろ?」
「あ、ええ」
「頑張って長くプレイしても精々40歳まで。早い奴は20代前半でお役ゴメンだ」
公は赤井が何を言おうとしているのか解っていた。
「沙希ちゃんに、逆指名のことは話したのか?」
「いえ…」
「お前がそれでいいなら…オレが口を挟むことでは無いんだが…。
 真相を知ったら沙希ちゃんがどう思うかだな」
「でも、沙希ちゃんとオレは…」
「将来のこととしても考えているのか?」
「あ、…できれば…」
「なら、尚のこと沙希ちゃんに何も言わないのは卑怯じゃないか?」
「でも…オレは…」
「わかった。お前がそう決めたんならオレはもう何も言わん。好きにすればいい」
赤井は話は終わりとばかりに立ち上がった。そして…
「公、FAって知ってるだろ」
「あ、はい」
「一軍在籍10年で自由に球団を変わることができる。
 お前なら早ければ28歳のオフに権利が取得できるだろう。その時に帰ることもできるぞ」
「はい…」
赤井はそれだけ言うと、公園を後にした。

「第1回選択希望選手 オリックス 主人公 18歳 内野手 きらめき高校」
全球団の1位指名が出そろった。
結局、公を指名したのは「阪神・福岡ダイエー・横浜・西武・千葉ロッテ・中日・近鉄・巨人・オリックス」の9球団だった。
在京は4球団。確率9分の4だ。
「主人君。9球団から指名を受けたわけだけど…今の心境は?」
アナウンサーに促され公はマイクに向かった。
「高い評価をしていただいて光栄に思います。でも自分の心は変わりません」
「それは関東球団でなければ、入団しないと言うこと?」
「そのつもりです」
ドラフト会場では抽選の用意が調ったようだ。各球団の代表者が抽選箱の前に並ぶ。
(頼むぞ〜 横浜・ロッテ・巨人・西武…ここならどれでもいいぞ…)
順番に各球団の代表が抽選箱から封筒を取り出していく。まず最初は阪神は吉田監督…ダイエーの王監督…そして最後にオリックスの仰木監督が最後の1枚を取った。
「それでは一斉にお開けください。選択確定の印があったのが当選となります」
司会者に言われて各代表が封筒を開ける。そして…
「うぉーーーーーー!!!!」
会場のどよめきはTVを通じてこの会議室にも伝わってきている。
そして会議室でも監督、先生、報道陣がどよめいた。
高々と封筒を差し上げガッツポーズをしたのはダイエーの王監督だった。
複雑の表情をしている公に一斉にカメラのフラッシュが焚かれた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル誓いのホームラン
サブタイトル第2章
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/誓いのホームラン, 虹野沙紀, 主人公, 他
感想投稿数18
感想投稿最終日時2019年04月13日 01時11分11秒

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