あの頃、彼女の知名度が上がったおかげで、大学の中でも好奇の目で見られることが
増えた。彼女の幼なじみという特権と、ただそれだけに止まらない関係ということが
他の人間の羨望を買ったみたいだ。
彼女とのコミュニケーションがしたいばかりに、
俺に接触してくるようなヤツが増えてさ、
俺はちょっとばかり疑心暗鬼になってたんだ。
まあ当然だよな、もし俺がこの立場になかったらきっと俺も同じ事するんだろうし、
だから暗い心を底に隠したまま俺はそいつ等と付き合った。
それはそれで楽しかったんだ、理由はどうあれ人間と付き合って行けている感触が
嫌いじゃなかったしさ。
でも肝心の君はなかなか俺、いや俺達の前に姿を見せる事が無くなったね。
きっと忙しかったんだろ、だって俺達は君と「会わない」日は無かったんだから。
君はその半年くらい前から毎日10分間のラジオ番組を持っていたんで
君の声が聞けない訳じゃなかったんだし、ドラマのみならず、下らないバラエティー
番組なんかでも君の姿を見掛けるようになったよ。
君の忙しさを加速させていたもう一つの理由が有ったね。
12cmのCDを出すとか言ってスタジオにも通ってたとか言っていた。
なんか以前の無能集団がプロデュースするんじゃなくて、実績のある人間が
彼女のプロデュースを受け持つみたいだった。これには事務所の方も力を入れていた
みたいで、君も乗り気だったのかな?君の心は知らないんだけどさ、とにかく
半端じゃなく忙しかったことだけは素人目に見ても明らかだったよ。
だけど、俺も一応楽しく生活していたからさ、君が隣に居ないことを必要以上に
寂しく感じなかったんだ。


そんな暮らしが数カ月続いた後、俺は彼女に呼び出された。
俺の方から彼女を呼ぶのは彼女にとって負担になるんだろうから躊躇したけど、
彼女から誘ってきたんだからためらわずに応じた。
はずなんだけど、俺はゴメン、遅れちゃったんだ。
ちょっと他の奴等が離してくれなくてさ、君も忙しいの知ってたんだけどね。
待ち合わせ場所に着いたらもう君は居なくて、ただ伝言板に一言書いて有るだけだった

「10月24日のドラマ−−−−−を見て下さい    藤崎」

かなり先の話だな、って思ったんだけど一応メモして置いて心の片隅に止めて置いた。
それからたまに君を見掛ける度、君は俺を避けているように見えたね。
その理由を知るのはまだ後のことだったんだけどさ。


そういえば君が芸能カメラマンに狙われる事も多くなったみたいだったね。
家に帰る途中狭い道なのにわざわざ路上停車しててさ、中覗いたら人が居やがるの、
迷惑なんだけどね。まあ君が受ける迷惑に比べたら知れてるんだけど。
電車の中吊り広告で初めて知ったんだ、君と噂になっている俳優が居るってね。
なるほどね。そういうことだったんだ。
相手の俳優もデビューして間もないヤツで、あどけなさが残る男だった。
なんでもどこかの写真週刊誌がツーショット写真を撮ったとか言う話だ。
まったく迷惑な奴等だよな。さしずめ、わざわざ似ている人間でも歩かせたんだろ。
でもさ、そんな下らない噂すら俺を傷つけたんだ。
いままでつるんでいた奴等がいきなりよそよそしくなってさ、現金な奴等だぜ。
「あいつと詩織はなんでも無いんだぜ」って噂がまことしやかに囁かれて、
今までと違った好奇の眼差しを受けたんだ。


そんな訳でかなり頭に血が上っていたある日だった。
俺は見たんだ、「あいつ」が来るのをね。馴れ馴れしく詩織の肩に手なんか
回しちゃってさ、きざな野郎だぜ。
まるで「見てくれ、写真に収めてくれ」って言ってるようにね。
あんな演技だったら俳優失格だろうな。
そんな見え見えなことにも大騒ぎするバカが居てさ、ますます俺を暗くさせたんだ。
しかも、いちいち俺の家まで来て「詩織さんの向かいの部屋を貸して下さい」
とか、ふざけたこと抜かした名刺見る限り3流誌のカメラマンとか居たんだよ、
「なんでそんなに狙うんです?」
「簡単ですよ、有名税ってヤツなんですから」
もちろん、みぞおちに一発と「下司野郎!!」の捨てぜりふを手みやげに持たせて、
お引きとり願ったけどね。有名だから覗いていいなんて決まりはないだろ?
でもさ、そいつのお陰で分かったんだ、俺の部屋と君の部屋の距離が離れたことを。
また前のように窓越しに話したりすることは2度と出来ないんだろうな、って
嫌と言うほど分かっちゃってさ、まだ10代なのに昔を懐かしんだんだ。
そういえば俺に一発入れられたヤツがさ、小学生の作文みたいな文章で
詩織と隣に住む男がどうとか書いたみたいなんだ。
そしたらさ、テレビのワイドショーなんてちょうど「夏枯れ」っていう
ネタがない時期で、異常なパワーをこっちに向けて来たんだ。
正直そのパワーには驚かされたね、ここにいる奴等全員が毎月何十万って給料
もらって居ると思うと、ガラじゃないけど税制のあり方について考えたりしたよ。
俺まで巻き込んだことに君も責任を感じたようだったね、夜遅く帰ると君は家に
電話を掛けて来てくれた、疲れているのに悪いなって思ったんだけど、
うれしさが勝ってさ、ついつい話し込んでしまったね。
そして最後にいつも
「私を嫌いにならないでね、私を信じていてね・・・」
そう言って電話を切ったよね。
そう言われるとこの間の肩を組んでいたヤツの事なんて聞けなくてさ、
いつも自責の念にとらわれたんだ。
なんだか彼女が俺を失うことを恐れるのと同じように、もしかしてそれ以上
俺は彼女を失うことを恐れているのかな・・・
なんだか何にも分からなくなってきていたんだ。

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作品情報

作者名 雅昭
タイトル悪意に満ちたSS〜詩織編
サブタイトル第5話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/悪意に満ちたSS〜詩織編, 藤崎詩織
感想投稿数37
感想投稿最終日時2019年04月10日 21時11分07秒

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