初めて経験するような夏を終えて、どうにか秋に持ってきた。
大学の奴等は俺と詩織のことを知っていて、またヘラヘラしてきたよ。
同じ事を繰り返すんだね、前の事を俺が忘れたとでも思っているんだろうか?
適当にそいつ等をあしらってまた日々の生活が始まった。
それは今までと変わることが無かったはずだったんだ。
少なくとも「その日」までは・・・。
詩織とあいつ、詩織と俺の三角関係はまだどこかで賑わしているようだった。
あれ以来テレビなんかも白けちゃって見てないんでつけることすらしなかったんだ、
でも手帳の中で「10/24ドラマ−−−−−」っていう文字を見つけて、
本当に久しぶりにリモコンを握った、後悔先に立たず、
あの時手帳さえ見なければ、あの時リモコンのボタンを押さなければ・・・
あんな事にはならなかったんだろうな。
1、2分の前振りが有った後、テーマ曲が流れ、出演している俳優の名前の文字列が
下から上へと流れていった。
もちろん詩織の名前もあった、本人が出演しているって言ったから、
当然なんだけどね。詩織とスキャンダルを巻き起こした俳優の名前も見つけた、
つながりはドラマか・・・ありがちな話だよな、ってポテトチップかじりながら
無責任に考えていた。
そんなことに嫉妬はしないからね、たかがドラマの共演じゃないか、
共演者全員を妬んでいたんでは体が持たないし、何より俺は彼女の暮らしという
長い長いドラマの共演者なんだろうっていう思いがあった。
思い込みとも言うんだけどね。
そんなスタッフロールなんて些細なことだった、全く問題がなかったと言っても
過言では無かったのかも知れない。
ドラマの内容はそれまで見ていなかったにも関わらず、理解できるところが
流石だな、っていう感じの、一言で言うと毎回何らかのアクシデントが起こる
ラブストーリーだった。現実にこんなに色々起こるとやってられないよな、とか
ますます無責任に寝転んで見ていた。
何度かのCMを挟む度俺は現実に引き戻されながら俺はそのドラマを見ていた。
でもさ、あの時はCMでもないのに現実に引き戻されたよ、
君とあいつのキスシーンが有るなんてね。
10月改編から始まったのドラマなんだからさ、客寄せパンダの役を
買って出たみたいなんだ。
こういう台本って結構収録間近に書き上げられるって聞いたこと有るんだ、
人の心を使って視聴率を求める奴等にとっては絶好のキャスティングだったんだよ。
彼女はそれくらい分からない訳は無いんだろうな、だからますます悔しかったんだ。
その日ばっかりは俺もショックでさ、テレビのスイッチも消さずに俺の部屋に
行ったんだ。そしたら君の部屋に赤々と電気がついていたんだよね、
凄いタイミングだよな。
もちろん俺は迷わずにプッシュホンのボタンを押したよ、それを待ちかまえていた
ように君は0.5コールで受話器を取ったよね。
「もしもし」
って日本語表現で一番白々しくさ。
俺の言いたいことくらい分かっているだろうに、君は何にも言わなかったんだ。
「どうしたの?」
って感じでね。
こっちとしてはどうしたもこうしたも無いんだけど、落ちついているように見せて
さっきのドラマの当たり障りのないことから話し始めたんだ。
この時の惨めさったら無かったぜ。
そして俺としてはさりげなく、今考えてみると全然さりげなくなかったんだけど、
あのシーンの話を切りだしたんだ。
君との電話ってよく驚かされるよね、その時君はこう言ったんだ
「だって、あの役の私はあの役の彼が好きだったんだから。」
その台詞聞いたらさ、首から下が全部心臓になったみたいで頭のただ一点に向かって
血液が押し出されたんだ。俗に言う「鶏冠に来る」ってやつだよ。
「あの時の言葉は嘘だったのかよ!」
俺は長い間胸に支えながら留めて置いた台詞を思いっきり吐き出した。
「本当よ、だって私が一番好きなのはあなたなんですから」
「なら、なんで・・・なんであいつと・・・」
彼女の必要以上に落ちついた態度にますますの憤りを感じながら、俺は叫ぶように
訊いた。
「簡単な事よ・・・」
彼女はいつもより低い声で話し始めた、その時ようやく俺は分かったんだ
「この電話は演技なんだ」・・と。
そして彼女の恐らく用意していたであろう台本を遮って、穏やかな声で訊いた。
「詩織、今からそっち行っていいかな?」
いつの間にか最も遠い場所となっていた家には30秒足らずで着いた。
たどり着く途中でフラッシュが焚かれたけど、気にしないことにしたんだ。
何年ぶりかでノックするドアは相変わらずその先に神秘を秘めているようで、
その前に立つだけでわくわくしたよ。
ドアを開けるなり君は俺の胸に飛び込んできて、大声で泣いたね。
あんまり声が大きかったんで思わず俺は戸締まりを確認するほどだった。
結構長い時間君は泣き続けて、俺のトレーナーをグショグショにした、だけど
俺は君のそんな姿を見れただけで何て言うか、ものすごい満足感を感じていたんだ。
そして泣きながら「ごめんなさい」を繰り返したね。
その時点で俺はもうそんなことはどうでも良かったんだ、だって君はあいつの
前でこんな風に泣ける?俺は泣けないと信じていたんだ。
それでも君は泣くことを止めなかった、俺も成す術が無くてさ、取りあえず君が
泣き止むのを待つことにしたんだ。
ようやく話すことが出来るようになった彼女は、時折目をこすりながら話し始めた。
彼女の化粧が崩れたけど、俺だから見せてくれる表情なんだってそう思えた。
あのスキャンダルの後に出演者が決まったこと、収録の前に俺に会いたかったこと、
あの収録の後にはうがいを何度も繰り返したこととか、笑っちゃう様な話
だったんだけどさ、俺もなんかそんな姿に安心して胸が熱くなったんだ。
そしたらさ、彼女はとどめの一撃を俺に刺したんだ
「でもね、あの前に会えたらあなたに・・・『キスして』って言うつもりだったの。
なのに会えなかったからあんな当てつけがましい事したの、ごめんなさい」
俺は彼女のファーストキス(であろう)を奪い損ねた悔しさ、って言ったら
下心見え見えなんだけど、とか彼女がそういう風に思ってくれた事とかが
嬉しかったんだ。
でもさ、俺は一つ忘れてたんだよね、「彼女はもう役者なんだ」ってことを。
作品情報
作者名 | 雅昭 |
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タイトル | 悪意に満ちたSS〜詩織編 |
サブタイトル | 第6話 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/悪意に満ちたSS〜詩織編, 藤崎詩織 |
感想投稿数 | 37 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月09日 12時06分09秒 |
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- [★★★★★★] うーん・・・ややこしくなって来ましたね〜。続きを読み進めましょう!