民放が視聴率を捨てているとしか思えない番組構成をしている時間帯、平日4時台の
いかにも制作費が無いことを露見させたがっているようにギャラの安そうな出演者をかき集めて
電波に乗せてみただけという番組にかき集められた1人が彼女だった。
地方ローカルのその番組には彼女と同じように、遅くからその道を目指し始めた人間が大勢
−−−といっても15人も居なかったけれど−−−小さなテレビ局のスタジオに集められてカメラの
前で何かやるという、お茶の間を軽く見ていただいていることを想像するに難くない役目を果たす。
冴えないレポーターまがい、義務教育完遂を疑われるクイズ、意味のない質問、笑い、涙。
極めつけは聞くに耐えない歌と見るに忍びなさまで感じさせるダンス。
舌っ足らずの女とキー局の仕事にあぶれた男の司会者が日本語を駆使した無意味な言葉を
次々と口からあふれ出ているのに止めようともせず、スタジオ一杯、画面一杯になると、こんな番組に
金を払っている会社のCMが流れた。
毎週ビデオに録画すること自体、理由がなければ無駄以外の何物でも無いようなこの番組で彼女は
ひときわ輝いていた・・・と身びいきしたいところだったけれど、どうにも僕はすれていて、そう言い切ることは
絶対に出来なかった。
だけど彼女を傷つけることは僕は出来ない、僕は収録の日と放映日の翌日はサークルの部室に
入り浸って時間を稼ぎ、待ち合わせにはいつも遅刻してしまった。
遅刻するだけで十分彼女を傷つけているのは分かっていた、だけど1秒でも長く彼女と接する時間が
長くなるとそれだけ番組の感想がクレームに変わったりしてしまいそうで、そして彼女を否定して
しまいそうで、とても出来ない。
優しさなのか、残酷なのか。僕のそんな動きは。
望んでいたんだ、彼女が僕の気持ちを少しでも分かってくれていること。
きっと、これだけで満足しちゃいけないってね。
自分の弱いところを受け入れることを。それを見つけることが支える人間の使命かも知れないけどさ、
僕には出来ないんだ、だから分かって欲しかったんだ。
僕の思いとはうらはらな結果が君にもたらされたことを僕に語ったのは皮肉にも、数字だった。
始まって1ヶ月もしない内に行われた公開録画に500人近くのギャラリーを集めることにその番組は成功した。
もちろん僕もその中の1人だったけど、予想だにしなかった小さな敗北をひしひしと感じた。
僕はまた君に負けたんだ、君と僕の幼さに。
僕の望み。僕の代理人が君を否定してくれることだった。これで君は最初の君と同じ君を取り戻せると思ったんだ。
プロダクションの都合で君はここに立てている。君の意志の前に違う力が君を動かしていることに
気が付いているのは君もだろ?
実力のないところをひけらかして、それで気を引こうだなんて。君は「頑張って」いるんだろう、
でもそれは誰かの力の中でだけ、君が培ってきた力は君が過ごした時間は一切見られることなく、
この一瞬だけをギャラリーは君を焼き付けているんだ。
違うかな?
果てしなく続く馬鹿騒ぎにアシスタントディレクターの指示で笑う周囲なんてそんな風にしか見えないし、
その笑い声に包まれる君もそんな風にしか見ることが出来なかったよ。
公開録画の時間も終わり、程度はどうあれテレビの中の人々を生で見れたことにギャラリーはおおむね
ご満悦の表情で帰っていった。観客席に2人を残して。
1人は僕、もう1人は見覚えのある男だった。
「今度デビューなさるそうで、おめでとう御座います」
そんな台詞を言って、彼女に花束を差し出した。
男は間違いなく、彼女が出演していた劇を毎回見に来ていた男だった。
作品情報
作者名 | 雅昭 |
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タイトル | 悪意に満ちたSS〜沙希編 |
サブタイトル | 第6話 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/悪意に満ちたSS〜沙希編, 虹野沙希 |
感想投稿数 | 24 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月11日 23時38分56秒 |
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